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嬉しいって言うのは何に対してなのかと訊ねたら色々だと言われた。
俺との距離が縮まったことも、キス出来たことも、俺が徳川さんのことを拒絶しなかったことも。

殆ど全部が嬉しいのだと言われたけど、それでもまるっと全部ではなかったらしい。
トーンダウンした声で「僕以外の誰かの存在がありそうなのは、不安だけど…」と言われて俺も心の中で「確かに…」と相槌を打った。

それに関しては俺も不安を感じているのだよ。

正直どうしたらいいのかは分からないし、どうにかなるかどうかも分からない。
と言うかどうなるのが正解なのか、選択肢が何個あるのかも分からない。
全てが未知の体験過ぎてマジで分からない。

それでもまあまあ順応出来ちゃってる自分すげーよなって思う。
まあキスくらいさせてやってもいっかって思える自分懐広すぎじゃねって思う。

と言うか俺、マジで誰とでもキス出来ちゃう人間なんだろうか。

その辺が今後の選択において重要になってきそうだから、とりあえず近々友人Aとか友人Bで試してみようかな。
いや駄目だな。それはドン引きされて友人を失う可能性の方が大だな。

どうしよう。さらっと相談だけしてみる?
それならリア友よりネッ友の方がいいか。
よしじゃあ今晩相談してみよう。


「ってことなんで徳川さん」

「…え?」

「答えはもうちょい待って貰っていいですか」

「…ああ、それは勿論だけど。正直僕にはどのくらい可能性があるの?」

「んー。そうですねー」


尊さんに対しても答えたけど0ではない、んだと思う。
伸びしろで言うなら断トツ徳川さんだとは思うけど、誰と比較してんのって突っ込まれたらめんどいからそれも言えないよな。
微妙に勘付いてるっぽいし。

まあ、俺が誰とでもちゅっちゅ出来ちゃうことが証明されたらその可能性とやらは限りなく0に等しくなるだろうから?
とりあえず現段階では期待させるようなことは言わない方がいいことだけは確かだよね?


「それは次また配達に来てくれた時にお答えします」


色々考えた結果出した答えがそれだったんだけど、その後何故か徳川さんは俺の肩にそっと息を吹きかけてきた。

恐らく溜息を吐いたんだろうと言うことは分かっているが、何故溜息を吐かれなければいけないのか。


「なんか変なこと言いましたか」

「いや、……振り回されてるなと思って」

「誰が?」

「僕が」


誰に?と訊く前に「詩音くんに」と言われてちょっとむっとなった。
質問を先読みされたこともだし、振り回しているだなんて心外だ。


「この俺がそんな高度テクニックを使えるとでも?」

「使えそうな人の台詞に聞こえる」

「俺ってそんな恋愛経験豊富そうに見えます?」

「いや、童貞って言ってたよね」

「そうでした。自己申告済みでした」


童貞のみならず彼女が出来たことすらないことも自己申告済みだった。
まあその辺は言わなくても薄々感じ取って貰えてたかも知れないけど。

「まあ、そう言うことなので」と言いながら徳川さんの身体をぐいっと押し返す。


「恋愛においては右と左があることくらいしか分からない俺の為に時間をください。ついでに遠慮もしていただけると非常に助かります」


「何分初心者なもので」と顔面に笑顔を張り付けた俺に対し、徳川さんは何も言わずにこくんと頷きだけを返してくれた。

最後の最後で彼がどう言う心情なのかまた読み取ることが出来なくなってしまったけど、恐らくそれは彼が意図的にしていることなんだろうと思う。
なんの為に隠すのか俺には分からないけど、まあこの短期間で結構徳川さんのことを知れたから今日のところは良しとしよう。

次会った時に自分達がどんなやり取りをするのか、全く想像が出来ないから楽しみだ。


「てかまだ荷物途中っすよね」


そろそろタイムリミットだと思うんだ。
流石にこれ以上俺んちの前に配送トラック停車させてたら職務放棄してるとかなんとかよくない噂を立てられてしまう可能性がある。

何せ徳川さんは丁寧・迅速・無感情が揃ったイケメン配達員だから。
幾らイケメンに弱いおばちゃん達でも、この人は森野さんと尊さんに比べたら愛想の面で劣っちゃうからちょっとだけ人気が下がる。

と言っても徳川さんの場合は表情の変化がないってだけで感じが悪いようには見えないから不思議だ。

まああの三人のことを悪く言ってる人は今のところ俺の前には現れていないから多分大丈夫だろうけど。
ついでに言うとおばちゃん達の間ではちょっとだけ森野さん推しの数が多いみたいだけど、なんだかんだみんな箱推しっぽいから多分って言うか絶対大丈夫。

それでも今日は早く帰って欲しかったから、さっさと残りの荷物運ばせてさっさと追い返しておいた。
あのまま二人きりでいたら暴走しかねないからな。俺が。

後半立て直したものの徳川さんの急激なキャラ変に頭ん中かき回されちゃってるから、今は一旦気持ちを落ち着かせたかった。
前二人の時とは比べ物にならないくらい動揺していたからその辺はお察しいただけるだろう。

てか、徳川さんとあの二人を比較すんのはちょっと…いや、結構むずい。
だってこれまでの関係性が違い過ぎる。
イケメン配達員ってとこしか一緒じゃないもん。

あの二人にはある圧倒的お兄ちゃん感が徳川さんにはない。
それは”まだ”ないだけなのか、それとも彼が今後あの二人と同じカテゴリに移動することはもうないのか。

俺的には三人を同じようにカテゴライズしたかったから、徳川さんに対してももうちょい構って欲しいと思ってただけなんだけどな。

まあでも”恋愛対象候補”と言う意味では同じなのか。三人とも。


「…いや待て詩音、早まるな」


それは今晩俺が最も信頼しているネッ友によるお悩み相談室を開いて貰ってから判断すべきだ。
許可も何も得ていないけど彼なら快く相談に乗ってくれるに違いないからそこは安心して大丈夫だろう。
毎晩のように熱い夜を共に過ごす仲だからな。

ネッ友に相談した結果どうなるかは全く予想がつかない。
それでも客観的な意見を貰えるのはデカいだろう。

そう思ってその日の晩に『誰にも出来ない相談があるんだ…』とゲーム内個人チャットを飛ばしてみた。
そのままボイチャをすることになり、今日までの出来事をオブラートに包みながらざっくりと伝えてみたら、なんか話の流れで『直接会って話す?』ってことになっちゃって。

実は俺が一番親しいネッ友くんは俺と同じ県に住んでいるんだけど、それプラス同学年で大学生っとことくらいしか知らなかった。
でも情報を小出しに伝え合っていく内に隣の市に住んでいることが発覚して。
内容も内容だし、もっと真剣に相談に乗ってあげたいからそれなら直接会って話した方が良いと思うんだと提案された訳よ。

そんなこと言われたら「え、マジ?優しいね?」ってなるじゃん。
顔も本名も知らないけど、日常的に通話しながらゲームしてたんだからある程度の内面は知ってるじゃん。
めちゃくちゃいい奴だって知ってる訳じゃん。

だから俺も「じゃあ、会おう」と答えてしまったよね。

そうして俺達は二日後の日曜日に、お互いの家から大体中間地点にあるカラオケ店で会うことになったのだった。




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