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「二人も何か頼んだら?飲みホにしてるから」

「え?ああ……えっ!?」

「あああ!!」


ほぼ同時に叫んだ二人に、目の前の二人が今度は何だと呆気にとられる。
修さんと拓也さんの目線の先には空になったグラスがあり、それから俺の顔を見て同時に額に手を当てた。


「なになに。何なの二人とも」

「お前……紘夢に飲ませたな?」


そう言って修さんがじとりと睨む。
「ああ、そゆこと」と理解した様子の誠さんが悪戯っ子のような笑みを投げ返した。


「折角の機会だから、一人だけ飲まないなんてつれないでしょ」

「ってことは紘夢はちゃんと断わってたってことだよな?」

「ふふ。そんなに弱いんだ?酔っても変わらないって言われたからさぁ」


わざとらしい台詞に言い返す気も訂正する気も湧いて来ない。
心配そうな顔で「大丈夫?」と覗き込んでくる拓也さんにこくんと頷くと、どう言う訳か彼が「あああ…」と言って項垂れてしまった。


「結構回っちゃってるし…」

「そんなの見ただけで分かんの?」

「分かるよ」


当たり前だろと言う顔をする拓也さんに雅也さんが素っ気なく「ふうん」と返す。


「ほら、つまんなくない?」

「……………ちょっと」

「ほらぁ。言ったじゃん」

「何の話してんだよ」


二人だけのやり取りに修さんが割って入ると、誠さんは「何でもない」と返して話を逸らすようにタッチパネルを修さんに手渡した。
流れでそれを受け取った彼が拓也さんと一言二言交わしてから二人の分のアルコールも注文する。


「てか雅也くんとお兄さん、全然似てないよね」

「あ、それはよく言われますね」

「やっぱり?お兄さんいくつだっけ?」

「23です」

「二つ違い?見えないなあ、ってのは失礼か。ごめんね?」

「俺に謝ってくんのがもう悪意しか感じねえわ」


悪態吐く雅也さんに誠さんが再度笑いながら「ごめんごめん」と謝る。

すっかり打ち解けてしまっているように見えるけれど、お兄ちゃん同士の仲が良かったら弟もそうなるんだろうか?
なんてことを考えながらぼーっと目の前の光景を眺める。


「俺と修も似てないけどね。俺のがイケメンだし?」

「いや、顔だけはお前に負けたことはない」

「それ言ってて虚しくなんない?」

「なんねえ。な?紘夢。俺の方がかっこいいよな?」

「え?うん」


何も考えずに思ったまま頷くと、修さんが「ほら」と勝ち誇ったような笑みを誠さんに向けた。
酷いなあ、とかそんな感じの返しをするんだろうなと思ったら誠さんは案外本気で悔しがっているような声で「ムカつく」と漏らした。

その言葉は俺に向けられたものなんだろうか。
そう思ったら勝手に口が動いてしまっていた。


「でも修さんも誠さんのことイケメンって言ってましたよ」

「「は?」」

「頭良いし、モテるし、話も上手いって褒めてましたもん」


昨日本人の口から聞いたばかりの台詞を伝えると修さんは表情を引き攣らせ、誠さんは嬉しそうな顔をして「へえ」と相槌を打った。

やっぱり修さんのこと大好きじゃん、この人。


「兄弟揃ってブラコンかよ」


雅也さんの口から呆れた声で漏らされた言葉にうんうんと頷く。
それでも二人は一様にそれは違うと否定した。


「紘夢、お前ちょっと暫く黙っといて?」

「ちょっと暫く?」

「うるさい。可愛いから黙ってろ」

「可愛いなら黙る必要ないじゃん」

「お前もうるせえよ」

「なあに。照れてんの?弟のこと大好きですーってのがバレちゃったから」

「マジでキモいから止めろ」


本気で嫌悪感を露わにする修さんを見て誠さんが可笑しそうに笑う。
さっきの否定の言葉が嘘みたいな言動に俺の頭が混乱する。

どっちなんだろう。どっちなのか知りたい。

誠さん、と呼び掛けると彼が自分の唇に人差し指を当てた。
しー、と言うジェスチャーに、両脇の二人が何か良からぬやり取りだと察知して反応を示す。


「おい、何だよそれ。何が秘密なんだよ」

「紘夢くん?今のは何?」

「え…と…」

「俺達のこと誘っといて待たせたんだからさあ、秘密の一つや二つくらい共有してても良くない?」


ねえ?と投げ掛けられて思わず頷いてしまった。
彼の目に強制力があるように見えたから。


「俺達が来るまでの間何の話してた?」


誠さんじゃ相手にならないと思ったのか、拓也さんが雅也さんに向けてそう訊ねた。
それを受けて面倒臭そうな顔をした雅也さんが「別に」と漏らす。


「お互いの仕事の話とか、そんくらいだよ」

「本当に?」

「何で疑われてんの。てか俺はこの二人のやり取りに関係ねえから」

「お前が誠さんの肩を持つ理由は何?」

「……兄貴さあ、そいつが絡むとマジでめんど臭くなるよな」


突き放すような言い方をした雅也さんを拓也さんは真っ直ぐに見つめながら「そうかも知れない」と静かに返した。
それからそっと俺の肩を抱いた拓也さんが、その手にぎゅっと力を込めながら目の前の二人に向けて言葉を放つ。


「嫌だから。二人が紘夢くんに対して興味を持つこと自体が、俺は嫌だから」

「紹介してきたのはそっちだろ」

「そうだけど。じゃあ何で雅也はもう一回紘夢くんに会いたいって言ったの?」


訊ねられた雅也さんがちらりと俺を見る。
俺はその理由を知っているけど、彼が拓也さんにした説明は俺がさっき聞いたものとは少し違っていた。


「単純に、どんな奴か気になったから」


最初に俺と修さんがキスをしている場面を目撃した時は俺が浮気をしているんだと思って純粋に腹が立った。
それは拓也さんを思っての感情だった。

でも俺と対面して話を聞いていく内にそれが誤解だと気付いて、俺自身のことも少しづつ見えてきて。
複数人と関係を持つような人間にはどうしても見えなくて、実は本性を隠しているんじゃないかと疑っていたからもう一度会って確かめようとした。


「でもそれは兄貴の為って言うより、俺の為…だった」

「…どう言う意味」


訊き返した拓也さんの声は少しだけ震えていた。
その彼に向けて、真っ直ぐな視線を向けた雅也さんが確かな声で答える。


「そいつに本当は裏の顔があったとして、それで兄貴が悲しむだろうとかそんなことは考えなかった。ただ俺が、そうだったら嫌だと思ったんだよ」

「……どうして」


もう一度訊ねられた雅也さんが今度は俺を見つめる。
その視線から感じられたのは、力強さと、温かさだった。


「まだ分かんねえ。そうだと確信するにはまだ…知らないことが多過ぎる」


お前のこと、と俺に向けて伝えられた言葉。

その後、修さん達が頼んだ飲み物が運ばれてくるまでの間、暫く沈黙の時間が続いた。




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あきゅろす。
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