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長い長いキスで理性を飛ばした俺達はその後、お互いを貪るように身体を重ね合った。
俺の感じる所なんて知り尽くしている湊人は、俺に容赦なく快感だけを与え続けた。

身も心もぐずぐずに溶けてしまって、湊人のこと以外何も考えられない状態になっていた時。
奴の昂った熱が俺の中を貫き激しく蹂躪している最中、手放した意識を引き戻すかのように、軽快な電子音が室内に鳴り響いた。

一瞬動きを止めた奴が、まるで何もなかったかのように腰の動きを再開させる。
俺もまた、今この時だけは湊人のこと以外は考えたくないと、引き戻された意識の片隅でそんなことを思っていた。

暫く続いた音が止み、肌と肌がぶつかり合う音、俺の喘ぎ声、湊人の息遣いで再び部屋中が支配される…
筈だったんだけれど、立て続けに鳴り響いた音は先程と同じもので。
初めは無視して行為に集中しようとしていた俺達だったけど、その音が一向に鳴り止まないので流石に意識がそちらに向いてしまう。


「っせえなあ…邪魔すんな、よ…っ」

「ああっ、あ、…電源っ…落として、くる」

「だめ、抜く気ない」


度々意識を奪われてしまったことに不満を抱いた湊人はそれを燃料にして、どんどんと突き上げる速度と強さを上げていく。
おまけに良い所ばかりを狙うもんだから、身体を仰け反らせて強過ぎる快感から逃れようと必死になった。


「あっあっそれだめっ、きもちいっ、きもちいっ!」

「逃げんな、って…ここ、好きだろ?」

「あっすきっ、すきっ」

「知ってる…っ…気持ちいな?ここ。もっと滅茶苦茶に、突いて欲しい、だろ?」

「いああッ!だめ!おかしくなるっ!みなと、みなとっ」


激し過ぎる攻めに頭を振り乱して泣き叫ぶ俺を湊人は上から押さえ付けて、的確に最大級の快感だけを与え始めた。
まともな言葉も紡げなくなって壊れたように湊人の名前を呼び続けていた俺の耳には、それこそ壊れたように鳴り続ける電話の音はもう届いてなどいなかった。

不意に、もう少しで絶頂を迎えてしまいそうだと言うタイミングで、湊人の腰の動きが止まった。
途端に耳が拾った電子音に意識が逸れ、俺は横目でテーブルの上に置いてあるスマホを見た。

その直後、俺の中からずるりと熱の塊を引き抜いた湊人が、直ぐにベッドから降りてスマホを手に取った。
それを機に着信音が鳴り止んだのでてっきり通話を拒否したものだと思ったんだけれど。
俺に向かって差し出されたそれの向こうから誰かの声が聞こえてきた時は、俺はまだ状況が飲み込めていなかった。


『紘夢?…あれ?聞こえてない?』


俺は一体何度この状況を体験したら許して貰えるのだろうか。
聞き慣れたその声の主を認識したと同時に、俺は神を恨んだ。

「話せ」と小声で脅してきた湊人に従わざるを得なかった俺は、恐る恐るスマホを耳に当てる。
この時の俺の意識はまだ半分だけ正常で、半分は快感に侵されている状態だ。


「聞こえて、ます…」

『あ、聞こえた。ごめん、何回も掛けて。取り込み中だった?』


はい、と答えそうになったけれどそれだけは踏み止まることが出来たらしい。
問い掛けを無視して「なん、ですか…?」と訊くと、電話の向こうが少しざわついたように聞こえた。


『あー。拓の弟の件とか佑規達から聞いたんだけど。一回皆で話し合っといた方が良いよなってことになってさ』


段々と覚醒してきた意識の中で、今は忘れていたい現実を突きつけられたことに対する悪態をつく。
湊人にはまだ何も話せていないから、余計に。


『今皆いるんだけど、今から紘夢ん家行って良い?』

「…えっ!?」


とんでもない提案をしてきた彼に俺が動揺したその時だった。

突然、勢い良くベッドに押し倒された身体。
その上に乗り上げてきた湊人が、無情にも、その欲望で俺の中を貫いた。


「――――ッ!!!」


その拍子にスマホは俺の耳元へと落下した。
声にならない声を上げて愕然とする俺の耳に、先程まで聞こえていた筈の修さんの声ではなく、今度は佑規さんの声が届く。


『あ、紘夢くん。俺だけど』


静かな室内ではそれくらいの音は聞こえてしまうらしい。
少し遠くなった声に返す言葉を見つけられないでいると、何を思ったのか湊人が通話をスピーカーの状態にした。


『ごめん、今湊人くんもいるよね?』


それを聞いた湊人が眉を顰めたのが目に入る。
大方、何で彼がそれを知っているんだと思っているんだろう。
そして知っていたのなら邪魔をするな、と言わんばかりに緩く腰を動かし始めた奴に俺は目を剥いた。


「いっ……ます…っでもちょっと、体調悪い、みたいで…」

『え?湊人くんが?』

「は、はい…、……風邪、ひいてて」


咄嗟に吐いた嘘にしては上出来だったんじゃないだろうか。
不機嫌な顔をして腰を動かす湊人の腕を掴みながら震える声で伝えると、一瞬電話の向こうが静かになった。

考え直してくれるのかも知れない。
そう希望を抱いた俺に、佑規さんは見透かしたような声でこう言ってきた。
『湊人くんに替わって貰える?』と。

勿論それは湊人の耳にも届いている訳で。
奴がどう出るのか、最早お手上げ状態の俺には見守ることしか出来ない。
再度佑規さんが『紘夢くん』と呼び掛けたのを聞いて、漸く湊人が口を開いた。


「何か用ですか」


不機嫌な態度を隠すこともせず、その声にありったけの不満を乗せて投げ掛けた湊人に、こちらは嗅覚の鋭過ぎる佑規さんの的確な質問が投げられる。


『今何してる?』

「聞きます?それ。俺は答えてあげても良いですけど、紘夢はどうだろうな」


何を馬鹿なことを言っているんだこの阿呆ぽんたんおたんこなす。
それはもう殆ど答えているようなものじゃないか。

衝撃と動揺と焦りで混乱する俺の耳に『へえ…』と恐ろしく低い声の相槌が届く。
その瞬間俺達は、いや、俺は終わりを迎えた。


「で?何か用があるんですか?ないなら切ります」

『用は紘夢くんにある』

「今日俺がいること知ってたんですよね?俺が先約です。明日にしてください」

『明日じゃ遅いから今日じゃないと無理』

「……じゃあここで聞きますよ。話があるなら今からどうぞ」


佑規さんを相手に舌打ちをした湊人が、そう言って律動を開始させた。
不意打ちを食らって第一声が口から飛び出てしまった。
慌てて口を塞いだけど、恐らく今のは聞かれてしまっているだろう。

それが湊人にとっても火種になったようで、既に蕩けた内部を遠慮をなくした腰に穿たれ、抑え切れない声が掌の隙間から漏れ出る。


『俺達にとって大事な話だから、こうして電話してるのに…君はそうやって俺を馬鹿にするようなことをして…』


怒りを抑え切れていない声だった。
熱くなる身体に反して、頭の中が急速に冷えていく。




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あきゅろす。
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