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そこから先は一つずつ隣に移動していくと言う形で、誰かと誰かの間にお邪魔しながらお酒をいただくことになった。
仕事終わりに駆けつけている人達は夕飯がまだだったようで、お酒を飲みながら食事をする人もいたりとそれぞれ自由な感じの空気がそこから広がり始める。

明日は祝日だからお休みだと言う人も意外と多く、残念ながら俺の恋人達四人組は揃って仕事なんだけど、そう言う理由で今日は雅也さんもお酒が飲めるらしい。


「こんなに早く浅尾兄弟と一緒にご飯が食べられるとは思ってなかった」

「それは三人でって話じゃなかった?」

「あ、うん…!」


それはそれでまたの機会を作って欲しいと目を輝かせると、雅也さんが穏やかな表情で「いつでもいいよ俺は」と言ってくれたから益々嬉しくなった。
調子に乗って反対側の隣にいる拓也さんに「拓也さんもいつでもいい?」と確認と取ると、少し複雑そうな顔をした彼が「うん…まあ…」と歯切れの悪い返答をする。


「え、駄目?」

「や、そうじゃなくて。雅也の態度が激変してるから…ちょっとなあって…」


そうかな…?そこまでじゃないと思うけど…

確かに全てにおいて優しくなっているのは間違いないけど、拓也さんがそう思うのは二人が兄弟だからだと思う。


「兄貴だって大概だろ」

「俺は彼氏なんだからいいじゃん。てか俺が一番変化がないと思う」


ねえ?と確認を取られたから雅也さんに向かって頷いて見せたら雅也さんも負けじと微妙な顔をしていた。

そう言うやり取りを見るとやっぱり俺は本物の兄弟としては接して貰えないよなあ…なんて思ったりもするけど、雅也さんとは友達のような関係でもあるって話だったからな。
それは俺の欲張りだと自分に言い聞かせておく。


「確かに拓は普段もそんな感じだけど、意外とあっさりしてるとこあんじゃん。バイトの子に告られてもしれっと躱してたりするし」

「「…おい」」


この白井さんの発言には俺に対する悪意等々は含まれていないことは俺には分かる。
そして俺もその程度の話を聞いたくらいで一々嫉妬するような人間ではないんだけど、周りが俺に気を遣うような反応を取ったから逆に意識が向いてしまった。


「やっぱりモテモテなんですね?」


彼らがモテること自体は知っているけど、どんな風にモテているかまではそう言えば知らないなと思って。
単なる興味本位で訊ねると、言い出しっぺの筈の白井さんが気まずそうな顔をして「ごめん」と謝ってきたから「いやいやいや」と手を振りながら否定する。


「別に嫉妬してるとかじゃなくて、どんな感じでモテてるのか気になっただけで」

「あ、そう。どんな感じってむずいな。まあ、想像通りなんじゃね?」

「もー司さん、余計なこと言わないでくださいよ」

「紘夢が訊くから答えただけじゃん」


嫉妬してないって言ってるし、と言う一言は拓也さんに刺さってしまったようだ。
軽くショックを受けたように「う…」と漏らした彼を横目に見て、慌てて「ああ、違うって拓也さん」とその肩に触れながらフォローに入る。


「そもそも白井は何でそんなに紘夢くんサイドなんだよ。修さんにだけ懐いてれば良いのに」

「それは紘夢が修さんの彼女だからじゃね」

「は?」

「てか俺が紘夢の味方だってことに何の問題があるんだよ。ってことはお前の敵でもねえってことだぞ」

「じゃあ修さんの彼女が紘夢くんじゃなかったら同じことしてた?」

「あ?お前のその発言の方が紘夢に配慮ねえんだよ。”じゃなかったら”とか言ってやんなよ」


言っても仕方ないだろ、と俺が白井さんに伝えた気持ちを代弁するように言ってくれた彼にちょっとぐっときた。
お陰で”彼女”って部分に突っ込みを入れ忘れてしまったんだけど。

と言うか、今ので拓也さんに引き続き佑規さんまでも黙ってしまったから、今度は佑規さんのフォローに入らないといけなくなった。

白井さんと佑規さんを向かいの席にするのは一種の賭けみたいなものだったけど、そこは両隣の人達がどうにかしてくれるだろうと思っていたところもあって。
でも佑規さんが凹んだままは嫌だったから、すっと立ち上がって佑規さんの隣に移動しようとしたら雅也さんに腕を掴まれた。


「早くね」

「え?」

「移動」

「っ…あ、え…」


まさか雅也さんに呼び止められるとは思わなかったから普通に動揺してしまった。

斜め向かいの誠さんがにやにやしながら「まあまあ。夜は長いよ?」と言ったことで雅也さんの手は放されたんだけど、それでも何となく雅也さんが寂しそうな顔をしているように見えて。
「次は蓮との間に座る、から」とまるで宥めるような約束を口にすると、蓮から「俺の隣は最後にしてよ」と抗議が入る。


「紘夢くんが酔ってない内にさっさとそちらの皆さんの所を回って貰いたいんだよね。で、最後に俺の所に帰ってきて?」

「何でお前の隣が最後なんだよ」

「それ。酔っ払いは俺が連れて帰るんだから俺と湊人の隣が最後ってのが妥当だろ」


ああ、それは確かに…と修さんの意見を聞いて納得していると、湊人が掌を返したように「やっぱそっち最後でいいわ」と言い直した。

あまりにも早い裏切りに修さんも衝撃を受けて唖然としていたんだけど、今の湊人の対応は修さんにおいしいところばかり持っていかせて堪るかと言う心情の現れだったようだ。
それが分かった皆が次々と湊人に同意を示したから、結果的に修さんが肩を落とすことになった。

何だこれ…
何で一人ずつ撃沈していってんだよ…

修さんに対して憐れみの視線を向けながら、今の間にしれっと俺を呼び寄せた佑規さんと和也さんの間に座り直す。


「順番的にはここの間が最後になると思ってたけどな。確かにあのまま右回りに進んでいってたら直前が柿崎の隣になるところだったわ」

「はい。それだけは回避出来て良かったです」

「えー何でー?俺も酔っ払いに絡まれたい〜」

「「帰れ」」


綺麗に声を揃えた俺の両脇の二人に対して俺は酷いなあ…だなんて思っていたんだけど、言われた本人は「佑くんの遠慮のなさがレベル上げてる」と言って嬉しそうに笑っている。


「どんどん弄り甲斐が増してきてるね」

「知りません。不愉快です」

「あはは。可愛くない後輩って、最高に可愛いんだよ」

「うわ、過去一鳥肌立った」


死ぬかも知れない…と言いながら抱き着いてきた佑規さんが珍しくて、驚きつつも笑いながら抱き留めると、柿崎さんもまた楽しそうに笑みを零していた。

まあ、柿崎さん同様に楽しそうにしているのは誠さんだけで、他の人達は呆れた顔をしていたんだけど。
そう言うところもやっぱり似ているんだな…と、白井さんを挟んで座る柿崎さんと誠さんを見ながらしみじみ思う。


「うん?どうしたの?俺の顔に見惚れてる?」

「…いや…」

「えーでも俺のことも見てましたよ。俺に見惚れてたんだよね?紘夢くん」

「ッ……つよい…」

「「うん?強い?」」

「えっと…」


どうやらもう、しれっと心の声を漏らしてしまうくらいには俺の酔いも進行しているようだ。

だって、これが二人は強いだろ。
圧とか。威力とか。何か色々。




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あきゅろす。
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