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好きな子の為に何かをしてあげられるなら、どんな形でも力になってあげられるなら。
それは自分にとっても幸せなことだと誠は捉えている。


「紘夢くんを笑顔に出来て、その笑顔を守ることで俺の紘夢くんに対する気持ちも少しは報われるなら、フられた俺にとってはそのやり方がベストだなって思った」


そしてその相互利益の関係を成り立たせる為には、もっと周りの協力が必要である。
紘夢達の関係を理解して、受け入れてやり、障害が現れた時はそれを乗り越える手助けをしてやる。
その為の協力者は当然多い方が良いが、協力者となる為の資格があるかどうかはきちんと判断する必要がある。

そう説明した上で誠は、白井にも柿崎にもその資格があると踏んでいると言う自身の見解を伝えた。


「紘夢くんの味方で、尚且つ紘夢くん達の関係を壊すつもりがないことが絶対条件。でもそれだけだと続かないだろうし、そこまで親身にはなれない。そう考えた時の俺達四人の共通点とは何でしょうか」


はい柿崎さん、と名指しで指名をされた柿崎は、抵抗を諦めたようにふっと笑みを零しながら「紘夢くんに個人的な感情を抱いてる」と答えた。

その回答を聞いた誠が満足そうな表情を見せながら「大正解」と返す。


「正直言って”あの話”を聞いただけだったら俺も雅也くんも貴方を味方にしようとは考えなかったでしょうけどね。でも柿崎さん、想像よりずっといい男だったから」

「ふふ。それはありがとう。誠くんもギリギリ俺の射程圏内にいるよ」


そう言って妖艶に笑って見せた柿崎に嫌悪感を露わにしたのは誠ではなく雅也の方だった。
柿崎がゲイだと言う予備知識は頭にはあったが、目の前で露骨なやり取りをされるのは雅也にとっては気分の良いものではない。

あからさまに眉を顰めて「そうゆうのマジで無理」と発した雅也に、今度は柿崎と誠が揃って笑い声を上げる。


「…何がおかしいんすか」

「んー?だって、ねえ。”そうゆうの”は冗談だったとしても紘夢くんしか受け付けないんだなぁと思って?」

「……いや、別に紘夢でも、アンタらにそうゆう絡みされてるとこは見たいとは思いませんけど」

「それはヤキモチ焼いちゃうから、でしょ?」

「……うざいっすね、マジで」


反論しようとした雅也だったが、結局は悪態を吐くことしか出来なかった。

それでもまだ何と返してもやり返されると早々に理解出来ただけマシだ。
負けじと言い返せば言い返す程に自分の首を絞めることになっていただろうから。


「何でもいいっすけど、明日も仕事なんで早く帰りたいんですよ」


だからさっさと話を進めてくれと言おうとした雅也に、向かいの二人から驚きの眼差しと共に「社会人?」と言う質問が飛んできた。

雅也にとってはそれも慣れた反応だ。
紘夢と同学年であると言うことと幼稚園教諭だと言うことをさらっと打ち明けると、今度は二人が「だからか」と納得したような反応を見せた。


「しっかりしてんなと思ったわ。そうゆうことな」

「俺は世話好きっぽいなぁとも思ってた。成る程ね。それなら確かに、紘夢くんみたいな子からは目が離せなくなっちゃうだろうね」

「…まあ、そうですね」


柿崎の発言を素直に肯定した雅也が、それから静かに「だから、困ってる」と漏らす。

雅也のその心境は同じような状況に立つ白井は勿論、誠と柿崎にも理解の出来るものだ。


「俺達はそうなった時の為に結託するんだよ。どんなに紘夢くんの為を謳っても、どうしても鬱憤は溜まっていくだろうから。そのぶつけ先が紘夢くんや修達に向かないように、俺達がお互いに慰め合えばいいでしょ」


一人より四人の方が、絶対心強いよ。

誠のその発言が、この場にいる四人を協力関係に結びつける決定打となった。


「誠くんの考えは理解したし、俺に出来ることがあるなら協力もしてあげる。でも俺には、紘夢くんに会う資格がないんだよ」

「今は、ね。それはどうにかするって言いましたよ」

「無理だよ。どうにかなる問題じゃないって、知ってるでしょ」

「まあまあ。やる前から諦めちゃったら勿体ないですよ。丁度お隣に良い活躍をしてくれそうな人がいるじゃないですか」


ねえ?と視線を向けられた白井が、柿崎に目を向けながら「俺にやれることならやってあげてもいいっすよ」と言って悪戯っぽく笑って見せる。

白井も白井で話が分からないなりに、どうにか状況を読み取って話について行こうとしていた。

元より白井には、全くの別件にはなるが柿崎の手助けをしたいと考えていることがある。
もしかするとその件も上手く絡めることが出来るかも知れない、と言う考えが頭にある為、この状況で協力の意思を示しておくことは白井にとって二重に意味のあることだった。

そして白井のその考えは、この後に誠達から聞かされた”紘夢の過去に関する話”を知った後、より強固なものとなる。

ただその前に、紘夢が同じ大学に通う男二人組に襲われた件、そしてその後に行われたゲームに関して大まかな流れを聞かされた白井は、誰に対する憤りを感じるでもなく、ただ己の無知を恥じ、そして今まで自分が見てきた紘夢の姿を思い返して酷く遣る瀬無い気持ちになっていた。


「…俺マジで…すげえ無神経なことしてたわ…」

「んー。何を無神経だと思ってるかは分からないけど、それは知らなかったんだから仕方ないよね。紘夢くんだって、あえて言わなかったってことはその方が良いと思ってたってことだよ」


「勝手に話しちゃった俺が言えることじゃないんだけどね」と言う苦笑混じりの誠の発言にも何も反応を返せない程、白井の受けたショックは大きかった。

そんな様子を見せられては、当事者である柿崎も当然ながら発言など出来そうにない。

自身がしたこと、それを黙っていたこと。
それはどんな言葉を使っても到底正当化出来るようなものではなく、柿崎のその罪悪感と後悔は白井にも計り知れないものである。

けれど、白井は特別柿崎に対しては何も思ってはいなかった。
話の全貌を理解し切れていないだけなのかも知れないが、白井は柿崎が直接的に紘夢を傷付けたと言うような印象は今の話を聞く限りでは受けていない。

それに、柿崎に関する話をしていた時の紘夢の様子を思い返せば分かる。
紘夢が柿崎を嫌っていないことも、ましてや一切の交流を遮断したいとは思っていないだろうことも。
今思えばそうだったのか…と言うものばかりだ。


「まあ、大体の話は分かった。健太さん。さっきも言ったけど、紘夢は真面目に健太さんのこと心配してたよ」

「……」

「今の話を聞いたから思えたことではあるけど、あの感じは連絡だって取れるもんなら取りたいって思ってそうだった。俺にはそう見えた」

「……」


柿崎も、無視をしたい訳ではない。
ただ返せる言葉が思い浮かばないのと、白井の言葉に変な期待を抱きたくなかった。


「それは多分、純粋に怪我の心配をしてくれてるだけだよ。紘夢くんは優しい子だから」


柿崎のその発言が自分自身に言い聞かせる為のものだと言うことは白井にも分かった。

今ここで柿崎の背中を押すことは客観的に見れば紘夢の為と言えるものではないだろう。
白井はそれも分かってはいたが、この男は何よりも自身の目を信じて生きてきたところがある。

例え見えないところに何かしら抱えているものがあったとしても、”自身の目に映っていた紘夢”が白井にとっては紛れもない証拠となるのだ。




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