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この光景は実は以前にも見たことがある。
それこそ前回のバイトの時だ。
あの時は柿崎さんに半ば無理矢理連れて来られたんだった。

全く同じ反応を見せる佑規さんに苦笑しながらぺこっと頭を下げて挨拶をする。


「え?もしかして今日バイト?」

「はい、一応」

「なんか君たち知り合いみたいだね。植田くんが連れて来たんだけど」

「和さんが?」


どういうことだ、と俺に向けられた目が語っている。
かくかくしかじか…はお伝えすることが出来ないのでそれに関しては今は苦笑するしか出来ない。
「あとで」と口パクで訴えてみたら何とか伝わったらしく、俺から視線を清水さんへと向けた彼が「俺に何か?」と投げ掛けた。


「実は彼のお弁当が一つ足りなくてね。他の所で余ってないか確認に来たんだけど、椎名さんってまだいた?」

「えーっと、すいません。俺も今から入るところで、荷物置いてきただけなんですよ」

「あ、そうなんだ。分かった。ありがとう」


呼び止めてごめんと謝って他の所へ行こうとする清水さんを今度は佑規さんが呼び止める。


「控室とか探してきますよ、俺。丁度俺も椎名さんに用があるんで、ついでに」

「ええ?いやいや、岡本くんにお願いするようなことじゃないから。電話してみれば分かることだし…」

「清水さんって今日どこの担当ですか?」

「え?物販…だけど」

「じゃあ後でちゃんと送り届けますから、清水さんは先に戻っててください」

「あ、田中くんも連れて行くってこと?」

「勿論。もし余りがなかったらこっちでどうにかします」


こうなった時の佑規さんは清水さん以上に引かないだろうな。
ちらっとこっちの様子を伺ってきた清水さんがこのままでは可哀想だったので俺も助け船を出す。


「他のバイトの方達のことも気になるでしょうし、戻って貰って構いませんよ。俺としても男一人であそこにいるのはちょっと気まずいのもありますし…」

「それはまあ、そうだろうけどね」

「休憩がてらってことで、ゆう……岡本さんにちょっとお世話になってきます。時間までには戻りますから」


そこまで言うと今度は彼の方も断り切れなかったようだ。
佑規さんに向けて「じゃあ、お願いします」と軽く会釈をした後に「その分、田中くんの休憩は15分伸ばすからね」と言って持ち場に戻って行った清水さんはとても親切な人だと思う。


「今日のバイトは和さんに頼まれて?」


行こう、と言った彼の横に並んで歩き始めると直ぐに投げ掛けられた質問。
それに対して俺が頷いたのを確認した後に「ふうん…」とつまらなさそうな声を出す彼。


「言ってくれたら良かったのにって、思ってます?」

「思ってる」

「…ですよね。すいません。でも一昨日急に決まったことで…」

「そう言えば昨日、朝から和さんと一緒にいたみたいだね」

「えっ」


何でそれを知っているんだ、と思ったけれどそう言えば昨日…と、修さんとの電話でのやり取りを思い出した。
やり取りをしたのは俺じゃなくて和也さんなんだけども。


「前の日に珍しく早く帰ろうとしてたから何かあるのかと思ったけど、もしかして和さんのとこに泊った?」

「なっ…」


どうやったらそんなに勘が鋭くなれるんだろう。

分かりやすい反応を示した俺に彼がそのまま「分かりやすいね…」とぼやく。
そりゃあ隠すようなことでもないのかも知れないけど、かと言ってどんな反応をすればいいのかも分からない。

彼の中での憶測が確信に変わったらしく、長く静かな溜息を吐かれてしまった。
そんな彼に俺がすいませんと謝るのも可笑しい気がする。
返す言葉を探していると、彼が静かな声で気持ちを落ち着けているだけだから勘違いしなくていいと言ってきた。

怒っているのではないと教えてくれたんだろう。
じゃあその落ち着かない気持ちの理由とは。


「俺、佑規さんに話さないといけないことがあるんですけど」


多分嫉妬しているだけなんだろうなと思うけど、それでもこの流れのまま言っておかなければならないことが幾つかあった。
それが彼の嫉妬心を余計に煽ってしまうことになったとしても。


「あまりいい話ではなさそうだね」

「あー、まあ、佑規さん的には…?」

「何?和さん?」

「いや、実はさっき白井さんに会って…」

「白井?」


その名前が出たのは予想外だったらしく、ぴたりと足を止めた彼が探るような目を向けてきた。
それにはちょっとたじろいでしまう。


「あいつに何かされたの?」

「いや、何も。ただ、連絡先を教えろって言われたので、佑規さん達に許可を貰わないと無理だって伝えて、今は保留状態って言うか…」

「なんであいつが紘夢くんの連絡先なんか…」


俺を見つめる目は猜疑心に満ち溢れている。
でもそれは俺ではなく、今この場にはいない白井さんに向けられているような、そんな気がした。


「あいつと紘夢くんって、前のバイトの時にここで会っただけだよね?」

「……それなんですけど」


白井さんが数回俺の部屋に遊びに来ていたことを俺は彼らに話していない。
正直に言うとその件を俺はすっかり忘れてしまっていて、思い出した頃には話すタイミングを完全に失ってしまっていたのだ。
また来ると言っていた白井さんがそれ以来俺の部屋を訪れることもなかったので、俺の中で彼のことは半分片付けられてしまっていた。


「実はあの人、うちに来たことがあるんですよ」


怒られるの覚悟で打ち明けると、彼の顔から一切の表情が消えた。


「なんで?何をしに?」

「最初はその、俺と修さんの関係を探ろうとしてたみたいで」

「修さん?」


俺の口から飛び出すワードが悉く理解出来ない、と言った様子の彼に俺は順を追って事の詳細を説明した。
俺達の間で起きていたこと、白井さんに言われたこと、彼の思惑。
事実に俺の主観も織り交ぜて伝えると、佑規さんの表情に先程とは違う険しさが浮かんだ。


「最初の目的は果たされたのにそれでも紘夢くんとの関係を継続させようとしてる理由が分からない」

「…そこは俺も分からなかったんですけど…」

「けど?」


さっき彼と会って話して、もしかしたらこうなんじゃないかと言う考えが一つだけ頭に浮かんだ。
勿論俺の憶測に過ぎないけど、でも、多分。


「皆さんの仲間に入れて欲しいだけ、なんじゃないかと思います…」




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あきゅろす。
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