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「そう言えば、湊人くんって子も中々だって言ってたけど、岡本くんと比べるとどっちがヤバいの?」


誠さんのその質問に佑規さんが「湊人くんだって答えたら、今度は彼と接触するつもりですか?」と返して少し呆れたような表情を向けた。
それに対して誠さんが返した笑みがその問いの答えになっている。


「折角だから全員と会っときたいよね」

「何の為にですか」

「自分の兄弟の彼氏なんだから、どんな相手か気になるでしょ」

「…紘夢くんのこと言ってます?」

「勿論」


笑顔で即答した誠さんに佑規さんは溜息を吐き、投げやりな態度で「好きにしたら良いんじゃないですか」と返していた。


「どうやってコンタクト取るつもりか知りませんけど、全員が集まることなんて滅多にないですからね」

「そう?俺と紘夢くんがいちゃいちゃしてる動画でも送ってあげたら、どこだろうと全員飛んでくるんじゃないかなーって思ってるけど」


そう言って誠さんが小悪魔のように笑うから、佑規さんの吐く溜息が益々重くなってしまった。
俺もそれには反対だけど、実際にそんなことをしたら誠さんの言う通りになりそうだなと思ったら苦笑することしか出来ない。


「貴方の悪趣味な暇潰しに紘夢くんを巻き込まないでください」

「それは捉え方次第だねぇ。でも、数少ない自由な時間に癒しを求めたら駄目なの?」

「それなら他を当たってください。紘夢くんに何かしたら黙ってないのは、六人全員同じですよ」


その言葉には確かな牽制の意図が含まれていた。

誠さんは恐らく佑規さんの限界ラインがどこまでなのかを何となくでも理解しているんだろう。
だから彼も「冗談だって。何もしないって言ったでしょ」と言って引く姿勢を見せたんだろうけど、多分それもこの場でのモーションに過ぎないと思う。

誠さんは必ず、残りの恋人達に接触してくる。

そしてそれは佑規さんも分かっていることだ。
だから、巻き込むなと言う範囲を”俺達”ではなく”俺限定”にしたんだろう。

まったく…この人達といると頭使い過ぎるから疲れたわ…


「誠さん。俺だって、自分の彼氏を傷付けられたら黙ってませんからね」

「そんなことするつもりないよー。ただ見てみたいだけ」

「…そうですか。じゃあ、その件も含めて修さん達には話しておくんで、俺の知らない所で会ったりはしないでくださいね…?」


それで良いですよね?と言う確認の視線を二人に送り、双方から異論は上がらなかったから一先ずこの場ではそう言う話に落ち着いた。

本音を言うと俺にも、誠さんを含めた全員で集まってみたいと言う気持ちがある。

そこに雅也さんも加わってくれたりなんかして、皆で打ち解けることが出来たら。
そんな機会が訪れたら、これ以上ないことなのにな…なんて、それは望み過ぎか。

でも、俺のことを兄弟だと言ってくれた誠さんとはこれからも良い関係を続けていきたいと思っている。

そして今日の話を早く、修さんに教えてあげたい。


「じゃあね、紘夢くん。俺に会いたくなったらいつでも連絡してきてね」

「は、い。誠さんも、お仕事忙しいと思いますけど、頑張ってください」

「ありがとう。岡本くんも、うちの弟のこと宜しくね?」

「はい」


この時の佑規さんは”うちの弟”と言う表現に突っ込む気すら失せてしまっているだけで、誠さんのことを全面的に受け入れている訳ではない。
そうは言っても、佑規さんにしたらこの受け入れ方が出来ているだけで十分なことだとは思う。


誠さんと別れた後。

家まで送ってくれると言う佑規さんの言葉に甘えて二人並んで帰路を辿り始めると、そっと身体を寄せてきた佑規さんの手がこつんと俺の手に触れた。

今のはたまたま当たってしまっただけだったようだ。
でも、それにドキっとしたのは俺だけじゃなかったらしい。

珍しく「あ、ごめん」とぎこちない謝罪をしてきた彼に、俺の気持ちは見事に煽られてしまった。

離れていった手を追い掛けて指を絡ませながら捕まえると、佑規さんの足が止まって驚いた視線がこちらに向けられた。


「見られるの、嫌ですか?」

「嫌じゃない」


咄嗟に否定した様子の彼を見て頬を緩ませると、彼が自由な方の手でその顔を覆い隠してしまう。


「珍しいですね。佑規さんが照れるの」

「…酔ってる…?」

「え?……酔ってないと繋いじゃ駄目なんですか?」


確かにそう言いたくなる気持ちは分からなくもないけど…

そう思いつつも、少し拗ねた口調で訊き返した俺を見て佑規さんが「可愛過ぎる…」と呟いた。
お陰でまた更に頬が緩む。


「酔ってるってことにしても良いですよ」

「…もしかして、さっきの分も取り返してくれようとしてる?」

「…ちょっと一回その勘繰りモード解除してください。俺の発言に裏なんてあると思いますか?」


そう言って苦笑を向けると、佑規さんは「思わない、けど…」と否定した後にまた「可愛過ぎるから…」と呟いて俺の手をぎゅっと握り返した。

今の佑規さんを見たら誠さんも大喜びするんだろうな。
それは分かるけど、見せるつもりはない。

手を繋いだまま歩き出すと、直ぐに隣で「取り返したいのは俺なんだけどね」と言う呟きが落とされる。


「ずっと気を張ってたって言うか、誠さんの言動に意識を向け過ぎてたから」

「俺ですら疲れたなって思うくらいだから、佑規さんは相当でしょうね。今日はもう頭は使わないようにしてください」

「それもあるけど、純粋に、紘夢くんといる時間を無駄にしたなって思った」

「っ……そんなこと、ないですよ…」


そりゃあ今日が終始楽しい時間だったかって言われたら素直に頷くことは出来ないけど、でも、佑規さんのお陰で誠さんとの関係が改善されたのは間違いない。
それは誠さんが言っていたように、今日同席してくれたのが佑規さんだったからだと俺も思う。


「誠さんが俺にあんな風に言ってくれたのは佑規さんのお陰です。今日の流れを作ってくれたのは全部佑規さんだから」


時間を無駄にしたと言う言葉の意味がそうじゃないことは分かるけど、結果的に俺の為になっていた訳だから。
今日のあの時間がなければ誠さんとの関係が変わっていた可能性もあると思ったら、例えそれが別の意味であったとしても無駄と言う言葉は相応しくないと思う。


「今日の佑規さん、格好良過ぎました」


そう言って笑い掛けると、再び佑規さんの足が止まった。

そこから進路方向を変えてどこかへ向かって歩き出した彼に、腕を引かれるままに何も言わずについて歩く。
少し行った先にあった建物の裏側、人気のない場所にある大きな木の前で歩みを止めた彼が、そこで振り返って俺の身体を力一杯抱き締めてきた。

ここに来るまでの間にある程度の心づもりは出来ていたから驚きはしなかったけれど、場所が場所なだけに緊張はしてしまう。


「…佑規さん……誰か来たら…」

「見られたくない…?」

「っ……」


落ち着いた声の中に潜む、縋るような感情を感じ取ってしまって。

そっと背中に腕を回して抱き締め返すと、俺の肩に「10分間、不安で仕方がなかった…」と言う、糸のように細い呟きが落とされた。




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あきゅろす。
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