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一旦キスマークのことは諦めることにした。

いつの間にか綺麗に畳んで置かれてあった服に袖を通し、お昼をどうするかと言う話をしながらしれっとスマホを手に取る。
今の間に白井さんに返信しておこうと思って画面を見たら、少し前に『既読無視すんなよ』と届いていたからうっかり笑ってしまった。

いつかの誰かと同じこと言ってるし。
やっぱ似てるんだな、この二人。


「何笑ってんの」

「…白井さんと修さんって似てるよなぁと思って」

「は?…え。だから司も好きになるってこと?」

「いや、何で。どんだけ短絡的なんだよ。そんな訳ないでしょ」


似てるとは言ったけど同じとは言ってないんだから。
仮に見た目も中身も修さんに瓜二つの人が目の前に現れたとしても、俺には修さんじゃなきゃ意味がない。

とりあえず白井さんには『返信遅くなってすいません。お仕事お疲れ様でした』とだけ送り、その内容も彼らに伝えておいた。
そのまま昼食の話に戻そうとしたんだけど、スマホを置く前に通知が届き、その相手がまさかの誠さんだったから直ぐさまそのことを彼らに伝える。


「あいつ仕事中の癖に…何て書いてある?」

「えーっと……明後日の夜に会えない?…だ、そうです」

「「………」」


早速きたか、と言う顔をしているように見える。全員。

まさか誠さんも俺がこの人達と一緒にいるとは思っていなかっただろう。
でもこっちからしたらナイスタイミングだったかも知れない。
皆の前でやり取りする方がお互いに安心出来るだろうから。


「水曜か。仕事は早目には片付くだろうけど、佑規か拓のどっちかに任せた方が安心ではあるな」

「俺が行きます」


即答した佑規さんに拓也さんが何か言うかなと思ったけど、彼は異議を唱えることもなく寧ろ「じゃあ、お願いします」とあっさり任せていたから少し驚く。


「佑規と誠と一緒とか紘夢が可哀想」

「だから良いんじゃないですか?自分で言うのもアレですけど」

「俺もそう思って佑規さんに任せようかなって。俺は一回会ってるから、あまり警戒とかもされてないと思いますし」


成る程。そう言うことね。
確かにそう言う観点から修さんが外されていることを思えば、拓也さんよりは佑規さんの方が適任かも知れない。

と言うか、佑規さんと一緒なら滅茶苦茶心強い。
多分だけど誠さん相手でも遠慮なく”駄目なものは駄目”って主張出来る人だと思うから。


「じゃあ、大丈夫ですって返事しますね。時間とか場所はどうしたら良いですか?」

「向こうが条件を言ってきたら一回俺に見せて。都合が悪そうなら変更して貰うから」

「分かりました。じゃあ、また返信が来たら伝えます」

「うん。お願い」


そう言うことでこちらの話はまとまり、あとは誠さんの返信次第ってことになったんだけど。
今回は四人が揃っていたからスムーズにいったものの、毎回こんなやり取りをしなければ予定が立たないのは少し面倒だな…と思ってしまう気持ちもあって。

それをぽろっと零すと佑規さんにその方が良いと言われたから、どうしてだろう?と疑問を抱いてしまう。


「面倒だと思われた方が誘い自体も減るんじゃないかな」

「ああ、そう言う…確かにそうかも知れませんね…って、修さんの前で言うことじゃないですよね。すいません」

「いいよ別に。紘夢にちょっかい出そうとしてるあいつがおかしいんだから」

「……うーん…まあ、…まあ…」


そう言われるとこっちも何とも言えない。
そうじゃないと否定も出来ないけれど、堂々と肯定するのも流石に気が引けるしそこまでのことは思ってはいない。


「てか、…」


何かを言い掛けて言葉を切った佑規さんが、その後珍しく「いや、何でもないです」と言って発言をなかったことにしようとした。
すかさず修さんが「何?言えよ」と促す。

佑規さんは少し迷っていたようだったけど「そこまでの意味はないですよ」と前置きをし、俺の反応を伺いながらその続きを口にした。


「やたら修さんに近しい存在の人が、紘夢くんに関わってくるなぁと、思って…」

「「………」」


最初にその話題を出そうとした時の彼は比較的軽い感じだったから、佑規さん自身が言うようにその発言に深い意味なんてものはなかったんだろう。
でも、そこに気付いたと言うことは、やっぱりそれは意味のあることなんじゃないかと思ってしまって。

俺が「そうなんですよね」と肯定するような相槌を打つと、修さんの表情が僅かに強張る。


「修さんって愛されキャラじゃないですか」

「…いや、」

「誠さんにしろ白井さんにしろ、柿崎さんにしろ。それぞれ俺と関わる目的は違うでしょうけど、でも皆、修さんのこと大好きな人達ばかりですよ」


それは紛れもない事実だと俺は思っているけれど、そこに柿崎さんの名前が並べられていたことが何よりも不満だったらしい。
「あいつは違う」と否定する修さんを見て少し迷った末、俺は心の中で柿崎さんに対する謝罪を述べた。


「…違わないよ。修さんがあの人に何されたか詳しいことは知らないけど、何でそんなことしたかの理由を俺は知ってるから」


俺のその発言は修さんのみならず他の三人にとっても多少なりと衝撃を与えたようだ。
どう言うことか説明しろ、なんて言われなくても説明するつもりはあるから、揃って難しい表情を見せる彼らを見ながら直ぐに概要だけ説明する。


「柿崎さんのことはあまり触れない方が良いのかなと思っていたので、俺も何も言ってなかったんですけど。あの人と最後に会った日に色々と教えて貰ってたんですよ」

「……色々…って…」

「すいません、その内容までは俺の口からは言えません」

「っ、それじゃあ、」


分かるよ。
そこまで言われたら知りたくなるのは当然だし、言わなきゃ理解出来ないとも思うだろう。

でも俺だって、最後まで直接本人に話そうとしなかった柿崎さんの意思を尊重したいと思ってる。
それに、俺が修さんに伝えたいのはその内容自体がどうとかって話ではない。


「知ってるからって柿崎さんの肩を持ちたい訳じゃないんですよ。柿崎さんの言葉を借りるなら…俺がそれを修さんに伝えるのは”修さんの為”です」

「……何で俺の…」

「勘違いしたままでいて欲しくないから。相手が柿崎さんってことは置いといても、修さんが周りの人達から大切にされてるってことを、修さん自身にも知って欲しいから」

「ッ……」


どう言う訳か、修さんの周りの人達は表立って彼を守ろうとしない人が多い。
修さん本人には知られないように、そして起きていたことも彼らの手でなかったことにして、可能な限り修さんが傷付かないように守ってきた。

それが良いか悪いかは置いといても、そうやって動いてくれる人がいることを修さん自身が知らないのは勿体ないと思うんだ。

俺はそれを湊人から学んだ。


「……司と似たような感じ?」


だとしても認めたくない、と言う顔をして投げ掛けてきた彼に、そっと笑みを返す。
それで半分合っているけれど、半分は違う。


「やってたことは…ですかね。修さんに対する感情は全然違います」

「…ふうん」

「俺から聞いたってことは、言わないで貰えると有り難いんですけど…」

「俺からあいつに連絡する訳ないだろ」


ってことは、連絡先はまだ残ってるってことだよな。

ふっと笑みを零すと軽く睨まれた。
それは勝手に話した俺に対する柿崎さんからの視線だと思うことにする。




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