12 ※
鎖骨の下、二の腕、それから胸元…と、もう既に何回吸われたのか分からないくらいだから、結構な数の痕を残されていると思う。
それ自体は何も問題はないけれど、拓也さんがそこまでするとは正直思っていなかったから驚く気持ちもあった。
ただ、付けたばかりの痕をそっとなぞる時の彼の表情が一瞬嬉しそうに綻ぶのを見てしまったから、そしたら俺ももう余計なことなんて言える筈がない。
「いっぱい付けちゃった…。後で怒られそうだから、佑規さんのご機嫌取りだけ協力して貰っても良い?」
「え…?」
「佑規さんは俺の為に背中だけに付けてくれたんだよ。自分がする時に、こっち側にいっぱい他の人の痕が残ってたら嫌でしょ?」
「あ…」
そう言うことか、と拓也さんに言われて理解した。
じゃあ佑規さんはその為にずっと後ろから…
「後で佑規さんのこと褒めてあげてね」
「っ、はい」
それは勿論だ、と思いながら視線を横に向けようとしたら拓也さんの指に顎を捉えられた。
すっと目を細めるように微笑んだ彼が「後で、ね?」と言ってそのまま俺の唇を塞ぐ。
この時俺は、今の行動が彼なりの独占欲の現れだと言うことに残念ながら気付くことが出来なかった。
気付いていたらきっと気持ちが騒いでどうしようもなくなっていただろう。
「んっ…んっ……は、…ん…」
拓也さんはキスマークを付けることにはもう満足したらしい。
甘いキスを交わしながら彼の腰がゆっくりと動き始めたのを感じて、閉じていた目をそっと開けると彼も同じように俺を見つめていた。
目が合うと優しく微笑まれ、その甘さに心も脳味噌までもがすっかり溶かされてしまう。
「っ…すき……んっ…拓也さん…っ」
「可愛い…俺も、愛してるよ」
「あ、んん……愛し、てる…っ」
「っ、かわいい…かわいい、紘夢くん。愛してる。ずっとずっと、愛してるよ」
乱暴さなんて欠片もないのに、一突き一突きが確かな重みをもって俺の粘膜を押し広げ、腰が砕けそうな程の快感をもたらす。
彼の口が紡ぐ甘い言葉がその快感を助長していることは間違いなく、寧ろ今は精神的快感の方が上回ってしまっているかも知れないくらいだ。
「あっ…あっ…拓也さっ…拓也さっ…!」
おかしくはなり切れない状態で丁寧に、そして着実に与えられる快感。
触れられた個所、言葉から伝わってくる彼の愛。
こんな状況でも普段と変わらず理性的なセックスをしてくれる彼が、こんな状況だからこそ特別に思えた。
「拓也さん…っ」
「イきたい?」
そんなに顔に出ていたのだろうか。
名前を呼んだだけで俺の心情を汲み取ってくれた彼に感動しつつ、こくりと頷くと拓也さんの手が俺の性器に伸びた。
「あっ…!」
「こっちは暫く触って貰ってなかったよね」
「あっ、あぁっ」
完全に中だと思っていたから油断していた。
俺自身もそっちのことは忘れていたくらいだけど、触られた瞬間に性器に熱が集中してしまった気がして射精したい気持ちが一気に膨れ上がる。
「中とどっちが良い?」
「あっ、どっちもっ」
「やっぱり?」
「それって同時ってこと?」と訊ねつつ、俺の返答を待つことなく前立腺を狙って腰を動かし始めた彼がそれと同時に握っていた性器も扱いてきた。
「っだめだめ!っあ、ひあっあっ…!」
「気持ちい?」
「きっきもちっ、あんっん、だめっ、ねえっ…たくや、さんっ…だめっ」
「止めて欲しい?」
「やっ、やだっ、きもちっ…いっしょ、したら、きもちいぃっ!」
「うん、気持ちいね、俺も気持ち良いよ」
彼の投げ掛けに意地悪な意図なんて含まれていない。
彼はただ俺の要望に応えてくれようとしているだけで、俺が滅茶苦茶を言っているだけだ。
「あー、中すごい…こっちもどろどろだし、両方イっちゃいそう…っ?」
「いっいっちゃうっ…もっ、あっ、せいしっ出ちゃうっ」
「ん、出して、…っ…どっちもしててあげるから、両方、イっていいよ」
俺を気持ち良くさせることに全てを注いでいるかのような動きで前も後ろも責められたら、それこそ堪ったもんじゃなかった。
ぎゅっと目を閉じると、自分の上げる喘ぎ声に紛れて先程注ぎ足されたローションが泡立つ音が耳に届く。
もう一体何がどう気持ち良いのかも分からなくなるくらいの快感に襲われ、殆ど悲鳴に近い声を上げながら射精と同時に中での絶頂を迎えた。
「ッ〜〜、紘夢くんごめん」
その急激な内部の収縮には流石に拓也さんも耐えられなかったらしい。
今この状態で中を突かれ続けることの苦痛と壮絶な快感は拓也さんも分かっていて。
そして俺も、彼がそのままじっとしていられないくらいに快感を得たくなっている状態であることはもう理解しているつもりだ。
だから、止まることが出来ない彼が俺に対して申し訳ないと思っていることは分かっていたし、俺もまだもう少し待って欲しいと思いつつも彼を止めることが出来なかった。
「ああぁッ、うっあっあ、うっ、あぁっ」
「はっ……あ、…っ……ごめ…っ」
荒くなった息の合間に伝えられる謝罪の言葉が俺の耳を右から左へ通り抜けていく。
ずっとイっているみたいな状態になってしまっているのか、頭が真っ白で何も考えられない。
自分の身体が他人のものになってしまったかのように言うことを聞かなくて怖くなったけれど、最後まで拓也さんの攻めが乱暴になることだけはなかった。
「っ…あー、…っ、もう、出すね…ッ」
数回大きく腰を打ち付けた後、びくっびくっと揺れた腰がやがて動きを止めて静かになる。
俺はそこで初めて全身から力が抜けていくのを感じて、気の抜けた吐息が口から漏れ出た。
「大丈夫…?」
「ん……力…入んない…」
茫然と天井を見つめながら答えると、何度目か分からない謝罪の言葉が聞こえた。
その後、横から聞こえてきた複数の声。
「…終わり?マジでこれで終わり?」
「…きついな。でももう、……いや、きついわ」
「俺は終わらせる気なかったんですけど、駄目ですか。前側にはまだ付けてませんし」
不穏なやり取りに反応して目を遣ると、何を考えているか分からない顔をしてこっちを見ている佑規さんが先ず目に入った。
そんな彼にすかさず修さんが鋭い視線を飛ばす。
「お前はマジでいい加減にしとけよ。あんだけ付けたんだからもういいだろ。あれでまだ満足してないとか狂ってるから」
「…アレでも何割か我慢してたんですけど」
「どこがだよ。お前普段紘夢に何してんの?」
「別に何もしてません。キスマに関しては今日だけの話じゃないですか。しかも制限解除したの修さんだし」
「お前はキスマだけじゃないだろ…!」
「つか、前側も拓が付けまくっててもう残ってないんだよ。俺はまだどこにも付けてないのに」
「手とか脚とかありますよ」
「そんな明らかに見えるところに残す訳ないだろうが」
お前と一緒にするな、と言われた佑規さんが伺うような視線をこちらに向けてきた。
だって良いって言われたから…とかそんな感じのことを思っているんじゃないだろうか。
実は今の間に拓也さんはしれっと俺の中からモノを抜き取って下着も履いてしまっていた。
やり取りなんか全無視して俺が出したものも綺麗に拭き取ってくれた彼はどうやら今日は仲裁に入る気はないらしい。
やっぱり四人同時は難しいな。
「…和也さん」
「うん?」
身体はある程度綺麗にして貰ったとは言えまだ全裸の状態だったから、寝転んだまま膝を立てて自分の太腿を指差しながら「ここは、駄目ですか…?」と和也さんに問い掛けてみる。
それから、足元に乗り上げてきた和也さんが俺の両足を大きく開かせて内腿に吸い付くまでは、ほんの数秒間の出来事だった。
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