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そう言えば、修さんと佑規さんと三人の状況は今までもあまりなかったような気がする。
皆でいる時は一番やり合っている二人な気がしなくもないけど、どうなるのか。


「もう始めてたら駄目ですか。人数増えると出来ること減りますよね」

「お前もそう思う?やっぱここは早いもん勝ちで良いよな?」

「ねえ、全然良くないんだけど。もう直ぐ拓也さん来ますからね?」

「拓が来たら良いとこ取りされるから、尚更拓が来る前に色々しておきたい」

「確かに。拓はちゃんと和さんのこと待ってあげそうだもんな」


なんか、結託出来るらしいわ。意外にも。

てか待つのが普通なんだよ。
拓也さんの感覚がまともなだけだと思うし、だから俺が最終的に拓也さんのとこに行くってこの二人は分からないのか。

言ったら何されるか分からないから言わないけど、そろそろ気付いて欲しい。
いや、もう気付いているんだろうからちゃんと改善して欲しい。


「そう言えば、和也さんからはまだ連絡きてないんですけど」

「あー、和さんはマジで死んでるのかも」

「え」

「ちょっと最近背負い過ぎてますよね、あの人」

「えっ、そんなにですか?」

「「うん」」


マジか。俺が想像してる以上なのかな。

実情は分からないけど、この二人の言っていることは事実なんだろうから、即答出来るってことは相当なんだと思う。


「あ、俺らも頑張ってるよ?」

「分かってますよ。でも何でそんなに和也さんだけ…」

「んー。和さんは上からの期待がデカいのと、実際何でも出来るからな」

「修さんは?」

「俺は上手いこと逃げてるから。その結果和さんが皺寄せ食らってるなら悪いなってなるけど、あの人が皺寄せ食らってんのはあのクソ野郎のせいだからな」

「……、ああ」


一瞬誰のことを言っているんだろうと思ったけど、修さんがそんな言い方をする人なんて一人しかいなかった。
佑規さんが”その名前を出すな”って顔をしているのが見えたから俺も直接口にはしないけど、柿崎さんのことだろ。

未だにクソ野郎って言ってるってことは修さんもまだ未練があるんだろうな。

まあそれもそうか。
あの人が辞めてからそんなに日数は経っていないし。

意図して話題を逸らした訳ではなかったけど、結果的に流れを変えることには成功したらしい。
何とも言えない表情で「修さんのお陰でちょっと萎えました」と言う佑規さんの発言を聞いて密かに胸を撫で下ろす。

早く拓也さん来ないかな、と待ち続けること10分。

ピンポーンと聞こえて直ぐに玄関に向かおうとしたら佑規さんに腕を掴まれた。
やや下の角度から見上げる形で「さっき俺にしたヤツ、するの?」と訊かれたせいで俺の表情が崩れてしまう。


「しません。とりあえず」

「…とりあえず」

「とりあえず。和也さんを待つ派が一人増えましたから」


もうちょっと待ってください、と言って二人を残して玄関に向かう。
直ぐにドアを開けて出迎えると、足元にある靴を確認した拓也さんが「良かった。最後じゃなかった」と言って安心したように笑ったから衝動的に抱き着いてしまった。

ごめん佑規さん、キスはしないから許して。


「え。どうしたの?」

「早く拓也さん来てって、思ってました」

「おー、いきなり可愛いこと言うね。もしかして先に来てる二人に苛められた?」


直ぐにその発想が出来る拓也さんは流石だと思う。
まあそれもそうなんだけど、そう言うことにしたくなかったから「早く会いたかっただけ」と答えると「あー」と唸った彼に強く抱き締め返された。


「今日いつも以上に余裕ないよ、って先に言っとくね」

「え」

「ずっと二人で会ってなかったでしょ」

「あ…そう、ですよね」


その言葉の裏に含まれている意味はすんなりと読み取ることが出来た。
あんなにも続いていた行為の相手の中に拓也さんだけが含まれていないことは正直俺もちょっと気にしていたんだ。

だから、最初に拓也さんから月曜日に指輪を…と言う話をされた時は受け入れるつもりでいたんだけど、結果的に二人きりの状況はなくなってしまった。
指輪がと言うよりは二人の時間を作れなかったことに対し拓也さんは不満を抱えているんじゃないかと思う。

もしかするとこの様子だと拓也さんも向こうの二人サイドにつくかもな…

そう考えながら一先ず彼を連れて部屋の奥に戻ると、先に来ていた二人が不満顔で待ち構えていたから苦笑が漏れた。

多分だけど全部聞こえていたんだろう。
自分達の時だってちゃんと歓迎していただろ、と思わなくもないけど、まあ余計なことは言うまい。


「植田さんが最後なんですね」

「うん。まだ連絡すらないみたい」

「え、そうなんですか?…生きてますよね?」


いや、これ以上不安を煽るようなことは言わないで欲しい。
拓也さんはさっきまでいなかったからしょうがないけど。

「俺から連絡してみましょうか…?」と言ってスマホを手に取ると丁度そのタイミングで通知が届いた。
良かった生きてた…と安心し掛けたんだけど、確認したら相手は和也さんではなく。


「あっ…あー…」

「ん?え、もしかして来れない?」

「いや、……白井さんからでした」

「「はあ?」」


綺麗に揃った声に拓也さんの声は含まれていない。一応。

すかさず修さんに「司?なんて?」と訊かれたからその場で内容を確認した。
見たら『マジで疲れた。さっきまで寝てた』とだけ書かれていて、それが恐らく数日前に俺が送った文章に対する返信なんだろうなと思い、それをそのまま彼らに伝える。


「ふうん。司よりは絶対俺の方が頑張ってたけどな」

「ですね。それでも俺達はもうとっくに起きて既に紘夢くんちにいますからね」


…うん、俺もそれで良いと思う。
俺が仕事の頑張りを褒めてあげたいのはこの四人だけだし。

「そうですね」と相槌を打つと拓也さんが「俺も、頑張ったんだよ」と控え目に主張してきたから返信しようとしていた手が止まった。

何だこの人達。可愛いかよ。


「…既読付けちゃったんですけど、返信後でも良いですかね…?」

「「いいよ。司(白井)だし」」

「…はい」


じゃあ後で…とスマホを置こうとしたら、今度こそ和也さんからの連絡が届いた。
『ごめん、今から家を出る』と書かれた内容を読み上げて皆に伝えてから『気を付けてきてください。待ってます』と返信してスマホを投げる。


「直接見てなくても、貴方達がいつも以上に頑張ってたことは分かってますよ。その為の今日でしょ」


今日と言う日は全て四人に捧げるつもりでいるんだと言うことを伝えると、修さんが「じゃあ…」と言ってとある提案をしてきた。
それを聞いて最初は俺も抵抗したんだけど、結構直ぐに「喜んで貰えるなら良いか…」と思って彼の提案を受け入れることにした。

その提案って言うのが、和也さんが来るまでの間に挿入の準備を済ませておくってヤツなんだけど。


「先に始めたことに対しては文句言われるだろうけど、ちゃんと和さんの為だよってことをアピれば大丈夫だろ」

「普通に大丈夫だと思いますけど。最初に出来るのに文句なんかないでしょ」

「まあな」

「植田さんって大体最後ですよね。今回は間違いなく一番頑張ってましたし、俺達でしっかりお膳立てしておかないとですね」

「そう。その代わりそのお膳立ては本気でやらせて貰うけどな」

「当然です。その後ちゃんと俺達の番もありますから」

「今回は年功序列って感じですよねぇ。俺の為にも紘夢くんの為にも、お二人とも本番は手加減してくださいね?」

「「出来たら」」


なんて怖いやり取りを聞かされたせいで早くも撤回したくなってる。今。

やっぱり無理って言いたい。
拓也さんまで回るかどうかの話じゃないと思うんだ。




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