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約束の月曜日になった。

それぞれ家を出る時に連絡をくれることになっていたんだけど、佑規さんと拓也さんから『今から家出るね』と連絡を貰ったのが午前9時半頃のこと。

思ったよりもかなり早い連絡を受けて慌てて準備をし始めたところで玄関のチャイムが鳴り。
バタバタと玄関に向かうと、予想通り一番最初に現れた修さんがやたら良い笑顔で「おはよ」と挨拶をしてきた。


「おはよう、ございます。え、早くない?ちゃんと寝ました?」

「寝たよ?寝たけど、睡眠よりもこっちの方が即効薬だから」


そう言って玄関の中に入り込んできた彼がその腕の中に俺を閉じ込めて、首筋に顔を埋めてくる。
甘えた声で「あいつらが来る前に独り占めさせて」と言った彼の背中に大人しく腕を回すと、顔を上げた修さんが伺うような目をしてじっと見つめてきた。


「いいの?」

「…駄目な理由、ないなと思って」


正直に答えると彼がふっと表情を緩めた。
それから直ぐ、静かに唇を奪われ、もう一度ぎゅっと強く抱き締められる。


「今日くらい隣に住んでる特権使ってもいいよな」

「…うん。俺は今日だけじゃなくてもいいと思ってますけど」

「そんなこと言ったら毎日顔出すよ、俺。紘夢が起きてそうな時間なら、いってきますとただいまだけでも言いにくると思うけど」


いいの?と空気で訊ねてくる修さんに、俺も腕に力を込めて応える。

それこそ、駄目な理由なんて俺にはない。


「言わなきゃ分かんないじゃないですか。俺はそれで修さんだけ特別扱いしてるとは思わない」


今までは出来るだけ皆平等にしなければいけないと思っていたけれど、全てを同じにするのは不可能に近いと気付いた。
どうしてもその時々で誰かを優先してしまうことだってあるだろうし、対応が変わってしまうこともある。

今はそんなことがあっても良いんじゃないかと思っていて、そうすることでそれぞれの不満が解消されることだってあると思うんだよ。
恐らく最大の不満であろう”一対一の恋愛が出来ないこと”に関してはどうしても解消してあげることが出来ないんだから、それ以外で俺が応えられることは可能な限り応えたい。


「それに俺だって、隣にいるのに気を遣って会わないようにするとか…寂しい」


実際はそっちの方が本音に近かった。

そんな俺の遠慮をなくした発言を聞いて修さんの我慢も限界を迎えてしまったようだ。
慌てたように靴を脱いだ彼にそのまま押されながら部屋の奥へと連れて行かれ、ベッドの上にどさりと押し倒される。


「っ、待って、何す――」

「言わなきゃ分かんないんだろ。じゃあ紘夢が黙ってたらバレない」

「ッ…バレないって…何する気…?」

「めちゃくちゃキスする気」

「っ……それなら…いいけど…」


キスならわざわざベッドに押し倒さなくても…と思っている間に修さんの顔が近付いてきて唇を塞がれた。
キスの前に”めちゃくちゃ”と付けられていたことを見落としていたからそんな風に思えただけで、次第に深まっていく口付けに「あ、やばい…」と思い始めた頃には修さんの手が俺の下半身に触れていて。


「んっ、ちょっ…と」

「なあ、あいつらが来る前に一回イかせたい」

「なっ、それは駄目に決まってるでしょっ」

「お願い。それが俺の個人的なご褒美ってことにして」

「ッ……」


それをここで使うのは狡くないか。
てか、そんなことに使ってしまって良いのかよ。

もっと他に有意義な使い方があるだろうに…と思ったけど、他のことならご褒美なんて言葉がなくたって応えてあげるだろうから何とも言えなくなる。


「…駄目、だって」

「何で」

「…だって…」


そこから平気な顔をして他の人達を迎え入れるなんて俺には出来ない。
もっと、と求めてしまうのは目に見えている。

一回イっただけじゃ終われないからだと伝えると修さんが目を瞠った。
そしたらまた滅茶苦茶にキスをされて、意識が溶けかけた状態になった俺を解放した彼が「次誰か来るまで寸止め繰り返してやる」とあまりにも意地悪な発言をするから今度は俺が瞠目してしまう。


「…なんで、そんなこと…」

「俺なりの譲歩だよ。キスはいいんだろ?」

「そ……いや、もう、だめ」

「もっとして欲しくなる?知ってるよ。だからだろ?」


妖しい手付きで俺の首筋をなぞりながら「その状態で出迎えてやれよ」と言って意地悪く笑う修さんを見て軽く眩暈がした。

今日を迎えるにあたってある程度のことは覚悟していたつもりだったけど、流石にこれは想定外だ。
序盤も序盤過ぎるし、全員が集まる前にこんなことになるとは思わなかった。

でも確かに、修さんが一番に来ることが分かっていたならこんなことが起きても不思議ではなかったのかも知れない。


「…多分、次来るのは佑規さんだから」

「はは。だと思った」

「分かっててかよ。修さんって絶対佑規さんのこと好きでしょ?」

「んー?何。ヤキモチ?」


んな訳ないだろ。

呆れた顔を向けながら「修さんが怒らせた分は俺が佑規さんを甘やかしますからね」と言うと「じゃあ俺も佑規に怒ろ」とか言うからもう諦めた。
修さん相手にまともな会話をしようとすること自体間違っていたんだ。

そんなことしたって修さんを甘やかすつもりなんかないから。


「もう何でも良いけど、佑規さん来た時に俺が佑規さんのこと襲っても文句言わないでくださいよ」

「何それ駄目だよ。駄目に決まってるだろ」

「修さんがしようとしてることはそう言うことだから」

「いや、だったら俺でよくね?てかそこは普通に俺が欲しくなるところじゃん」

「修さんに普通とか言われたくないんだけど」

「お前俺のことなんだと思ってんだよ」


何だと思っているか、なんて。
そんなのもう何度も言っているじゃないか。


「お馬鹿でぶっ飛んでて、」

「おい、」

「ムカつくくらいモテモテで、悔しいくらいイケメンで、」

「あ、え?」

「実は滅茶苦茶優しくて、羨ましいくらい単純で、何だかんだ皆から愛されてる俺の自慢の恋人」


そう答えて笑うと、予想通り激しいキスをされた。
俺ももう良いって言ったし、佑規さんのこともちゃんと保険をかけた後だから止めたりはしない。

だから俺は修さんに甘いって言われるんだろうなと思いながら、彼の首に腕を回して抱き寄せる。
でも心の中では密かに「拓也さん早く来て…」と願っていた。

それから佑規さんが俺の部屋を訪れたのは30分経ったくらいの頃だったと思う。
修さんによってムラムラがMAX状態にさせられていたから、修さんに対する腹癒せの意も込めて玄関先で佑規さんに抱き着いて自らキスを仕掛けた。

そのお陰なのかどうか。
佑規さんが修さんに対してキレるようなことはなかったから良かったんだけど、まあ修さんは思い切り不満そうにしていた。

でも俺だって事前に言っといたからな。
良いとは言われてなかった気もするけど。




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