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いなくなった訳じゃなかったと分かって安心はしたけど、動揺した気持ちは簡単には鎮まらなかった。


「…勝手にいなくならないでって…言ったのに…」


ついそんなことを漏らしてしまって、それを聞いた誠くんが頭上ではっとなったのが空気で分かった。
咄嗟に謝罪の言葉を口にしたと同時に強い力で抱き締められ、今度は俺が驚きで硬直してしまう。


「……誠く…」

「もう絶対にいなくなったりしません」

「ッ…!」

「約束は守ります。俺はもう二度と、貴方を置いてどこかに行ったりしない。絶対に、それだけは守ります」


俺だって、また誠くんが同じことをするだなんてそんなことは思っていなかった。
これから先も、そんな約束なんてしなくたって大丈夫だと言うことも分かっている。

でも、こんな風になってしまうくらい。
起きた時に隣にいないと寂しくて不安だと思ってしまうくらい。
俺の中の誠くんの存在が大きくなってしまっていることを、強く思い知った。

お互いに下着姿のままだと言うことと身長差のせいで、俺の顔は今、誠くんの胸元にくっ付いている。
直ぐ近くで聞こえる心臓の音が少し速いと感じるのは俺の気のせいだろうか。
彼の身体からそっと離れて視線を合わせると、誠くんは少し困ったような顔をしていた。


「今、何時か分かる…?」

「え?あー、11時くらいだと思います」

「…俺、どれくらい寝てた?」

「…二時間くらい?ですかね」


二時間と聞いてショックを受けた。
それだけの時間、恐らくだけど一人で寝てしまっていた自分が何とも不甲斐ない。


「誠くんは、起きてたんだよね?」

「…はい」

「…だよね。ごめん。暇だったよね…」

「いや、そうでも…ないって言うか…」


そこで言葉を詰まらせた彼が俺から逃げるように視線を逸らした。
名前を呼び掛けると、こちらに視線を戻した彼が「すいません…っ」と何故か謝罪の言葉を口にする。


「え?何?」

「…俺、葉太さんが寝た後…身体を綺麗にしようと思って、」

「あ、うん、それもごめん。ありがとう」

「いや、違うんですよ。確かに綺麗にはしたんですけど、途中で貴方の脚に意識が向いちゃって…」

「っ……あー、えっと…」

「マジですいません。勝手に触りました。でもそれ以上のことはしてません」


それは本当だと訴える彼に、俺はこの心情をどうやって伝えれば良いだろうかと少しの間考える。

誠くんの性癖は知っているんだから今更何をされたって、驚きはしても引いたりはしない。
しかも今彼が言った程度のことだったら尚更。


「それ以上はしてないってことは…誠くんはあのまま…イってないって、こと…?」

「っ……流石に、あのままは俺も…」

「じゃあ、出しちゃったの…?」

「え?っ、ああいやっ、…それはちゃんと、抜いてから自分で――」

「もう、しない…?」


そう投げ掛けると彼は一瞬面食らったような顔をして、それからその表情に驚きと少しの期待を浮かべた。


「どう言う、意味ですか?」

「…俺のせいで、中途半端なまま終わっちゃったから…悪かったなって、思って…」

「それは、……俺がしたいって言ったら、してくれるってことですか…?」


誠くんの目には確信めいた期待と、俺が思い出させてしまった劣情の炎がいつの間にか宿っていた。

うん、じゃない別の答えを言おうとして、その前に彼の腕を引いてベッドまで移動する。
連れてきたは良いもののそこから先はどうすれば良いのかが分からず、結局ベッドの横に立ったまま「もう一回、したいです」と伝えることになってしまった。
そんな情けない俺を彼は笑うでもなく、答えの代わりにこれ以上ないくらいの優しい手付きで俺の身体をベッドに押し倒した。


「今日はもう中には挿れません。その代わりに、素股させてください」

「っ…素股、って…」


それで良いのかと訊こうとしたけれど、脚を使うのだから彼にとってはそれもアリなのかも知れないと思って止めた。
よくよく考えたら素股も十分エロい、と思う。


「全然、良いけど……素股の経験は…なくて…」

「あー、その情報は滅茶苦茶嬉しいですけど、煽るようなこと言わないでください」

「えっ?よ、要領がっ、分からないって…言いたくて…っ」

「葉太さんはただ脚を閉じておいてくれたらそれで良いです。俺が勝手に動きますから」


何もしなくて良いですよと言われ、流れるような動作でキスをされた。
そう言われても本当に何もしなくて良いものなのか…と、甘い口付けに応えながら頭の中でぼんやりと考える。

何だかんだ俺はいつも受け身で、求めることは出来ても何かを返すことは出来ていない。
気持ちを返すことなら出来るけど、それだけで良いんだろうか。

そんなことを考えていたせいで、キスを止めた誠くんが「やっぱり疲れてます、よね?」と訊いてきたから慌てて否定する。


「違うっ…!俺、ずっとして貰ってばかりだからっ…何か出来ることがないかって、考えてて…」


キスに集中出来ていなかったことに対してごめんと謝ると、クスリと笑みを零した誠くんが溶けてしまいそうな程に甘くて柔らかい表情を俺に向けてきた。
それだけではっと息を呑んだ俺に、擽ったいくらいの甘い声で彼が「好きです」と愛を囁く。


「っ……なん……俺も…好き、だけど…」

「可愛過ぎ」

「えっ…」

「本気で、真面目に、あり得ないくらい可愛いです」

「いやっ……うぅ…」


何で急にそんな感じになったのかは分からないけど恥ずかしいから止めて欲しい。
照れて真っ赤になった俺を見て更に表情を緩ませた彼が全身に吸い付くようなキスをしてくる。


「すいません、言うつもりなかったんですけど、やっぱり言わせてください」

「んっ…?」

「さっき俺に抱き着いてきた時、ちょっと泣きそうになってたじゃないですか。その時の葉太さん、死ぬ程可愛くてどうしようかと思いました」

「ッ!……だって……寂しかったから…っ」

「だから可愛いって言ってるんですよ」


そう言ってふわりと微笑んだ彼が、そっと伸ばした手で俺のソコに触れた。
気を抜いていたせいで大袈裟にビクついてしまい、その反応に気を良くしたのか、直ぐに下着の中に手を潜り込ませてきた彼が直接掌でソレを握り込む。


「んあっ…!ッ、誠くん…っ」

「次からは絶対、葉太さんが起きるまで隣にいようと思いますけど、あんな可愛いことしてくれるなら、それも良いなって思っちゃいますよね」

「えぇ…っ、やだ…っ…ずっと、隣にいてよ…っ」

「だから可愛いですって。マジで意味不明なんですけど。そんな可愛いのに今まで恋愛したことないとか嘘でしょ」

「っ、うそじゃ、ないっ…」

「だとしても、絶対葉太さんのこと狙ってた男いましたよ」

「えっ?なっ、何で…あっ……っん、何で、男っ…」

「可愛いからですよ」


それこそ意味不明だ。
そんな適当な説明しか寄越さないから反応するのが馬鹿らしくなった。
もう好きにしてくれと思いつつ、それでもちゃんと隣にはいて欲しくて、そこだけは俺も譲れない。


「も、何でも良い、けどっ…起きた時は、ちゃんと隣にいなきゃ、駄目だからねっ…」

「トイレも駄目なんですか?」

「えっ…あ、トイレは…っ…仕方ない、けど…でも…」

「じゃあ付いてきます?」

「…ええっ!?」

「起こして良いなら俺はそれでも良いですよ」


いや、そんなの良い訳ないから。

流石に冗談だろうと思ったけど結構本気で言っているらしかった。
何歳だと思っているんだ、と言い掛けて、ギリギリのところで地雷を踏みそうだと気付いて思い止まった俺を褒めてやりたい。




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