14 ※ 射精を伴わない絶頂は区切りがないので終わりが見えない。 俺が望めば意識ある限りは何度だってイくことが出来るのだろうし、望まなくたって刺激を与えられ続けたら否が応でもイってしまう。 そうなると最早いつイっているのか、今自分がイったのかどうかすらも分からなくなる。 その状態がどれ程までに怖ろしいことか。 この人は知らないから、イった後の俺に休む時間を与えることもなく腰を動かすことが出来るんだろう。 「あ゛ッ!なッ、まって、それっ待ってくださッ」 「あー、凄い。ずっとビクビクして、…っ…気持ち良いよ…っ」 「ちがっ、あっ!う、あっ、もっ、待ってって、言ってるのにぃっ」 「待ってどうするの?待っても待たなくても、どの道イき過ぎて、何も考えられなくなるんだから…っ」 だったら初めから気持ち良いこと以外何も考えられなくなってしまえば良い。 そう言っているのか、前立腺の辺りを何度も何度もノックするように腰を穿たれ直ぐにまた中が痙攣し始める。 「ん、イきそう?中、ほんと凄いよ。イく準備してるのが分かるくらい、ビクついてる」 「っあっああ…あっ、イくっ、イくっ」 「ちゃんとこっち見て言って。ねえ、また中イキするの?」 「んんッ、するっ、俺またっ、中イキっしちゃっ…ああぁッ――!」 怒涛のように押し寄せてきた熱が一気に破裂し、視界が激しく明滅する。 もうこの段階で俺の思考は完全に停止してしまっていた。 こうなるともう、与えられるもの全てを享受して底のない快感に溺れていくことしか出来なくなる。 それが彼の望みだったと言うのならば、俺が言えることなんて何もない。 「そろそろ奥も突いてあげないとね。こっちも好きでしょ」 「んあっ!あッ、好きっ、好きっ…奥、苦しっけど、きもちぃッ…」 「苦しいのも好きだもんね。こうやって、…っ、ほら、ここ、当たってるの分かる?ここ、こうやって突かれると、どうなるんだっけ」 「ああッ!だめッ!」 「うん?何が駄目?」 「んんぅっぐっ、こわッ、こわいっ…おかしく、なる…ッ」 「そうだね。気持ち良過ぎて、おかしくなるんだよね?良いよ、おかしくなって。そうやって、僕だけを見て、僕のことだけを考えてくれたら、それで良いから」 もうとっくに彼のことしか考えていなかったけれど、彼に言われたらより意識が集中して、頭も身体も彼の存在だけを求め続けた。 一度絶頂を迎えた後の武内さんはそれまでの行為が幻だったのかと思うくらい、優しく丁寧に俺の身体を愛撫し、感覚を覚えさせるようにゆっくりとした動きで俺の中に居座り続けた。 激しさを求める必要なんてないくらいの快感を与えられ身も心もぐずぐずに蕩けてしまったけれど、お陰で意識を飛ばすことはなかった。 射精は殆どさせられていないからかも知れない。 それでも中での絶頂は何度迎えたか分からないくらいで、それによる疲労が心地良さとなって俺の身体を満たしていた。 「ああ、もう1時過ぎてる。そろそろ止めないと」 そう言いながらも繋がったままの状態で戯れのようなキスをしてくる彼に俺の口からも甘い吐息が漏れる。 俺も今彼に言われて初めて明日のことを考えたけれど、彼には仕事があると分かってもこのままずっと抱き合っていたかった。 俺の頭がまともだったらきっとその気持ちは我慢していただろう。 でも残念ながら今の俺はおかしくなった後だから、そんなことも躊躇うことなく口に出来てしまう。 「離れたく、ないです…ずっとこのままがいい…」 甘えた台詞を吐く俺に彼はふっと笑みを零すと「そんなこと言って良いの?」と言って緩々と腰を動かし始めた。 「本気にして良いなら、朝まで寝かさないけど」 「んっ…ほんと、に…?お仕事は…?」 「一日くらい寝なくても平気だよ。それに、寝ようと思えばいつでも寝られるけど、河原くんとの時間はそうじゃないから」 次はいつ会えるか分からない、と聞こえた台詞に胸が締め付けられた。 いやいやと首を横に動かして「そんなこと、言わないでください…っ」と泣きそうな声で縋ると、困ったような笑みが降ってくる。 「でも、このままずっとここに閉じ込めておくよ、とも言わせてくれないんだもんね。じゃあ、何て言ったら満足して貰えるのかな」 少し苦しそうに見えるその表情が嫌だと思った。 そんな顔を見たい訳じゃない。 「何も…言わなくて、良いから…っ……好きって、言って欲しい…です」 好きと言えば苦しくなくなると教えて貰ったことを思い出した。 俺は武内さんの色んな表情が見たいと思っているけど、ただ本物の笑顔が見られたらそれだけで良いから。 いや、それが一番嬉しいことだから。 「俺もいっぱい言います…武内さんが、好きって、いっぱい…っ…そしたら一緒に、嬉しくなれますよね…?」 そう投げ掛けた俺に、彼は呆気にとられたような表情を見せた。 その後に笑いながら溜息を吐き、意地悪するみたいな動きで俺の中を突き始める。 「そんな言葉に騙される日がくるとは思わなかった。無自覚だからって許される訳じゃないって言いたいけど、…多分僕以外も、君のその言葉に騙されるんだろうね」 「っ、騙すっ?そんなつもりっ…」 「ないんだよね。知ってるよ。そんな君だから、僕は君を手放せなくなったんだよ」 そんな君だから、形振り構わず愛してしまった。 そう言って彼は自嘲めいた笑みを零した。 それから、揺れる俺の瞼にそっと口付けをした彼が、慈愛を映した瞳で俺を見つめる。 「騙すつもりのない言葉に、大人しく騙されてあげるのも、全部河原くんだからだって、君自身がもっとよく理解して」 「っ……」 「僕に愛される覚悟も、ちゃんとして貰わないとね」 「ッ!」 その瞬間に背筋がぞくっと震えて、俺の中にあるあの感情が騒ぎ出す。 それは多分、俺の頭がおかしくなっていようといまいと、同じことになっていたんだと思う。 「武内さん……俺もう……戻れないとこまで、きちゃってるみたいです…」 覚悟なんて決める前から俺はもう彼の中に飛び込んでしまっていた。 全てを支配されて、溢れるくらいに満たされたいと思ってしまうくらい、深いところまで。 沸き起こる感情を瞳に宿して見つめると、彼の舌が俺の目の上を這った。 「上等な殺し文句だね」と言って微笑む彼に、俺は再び背筋を震わせた。 *** 本気で朝まで繋がっているつもりでいたのに、気付いたら眠ってしまっていたようだ。 重い瞼を押し上げるとすぐ目の前に武内さんの寝顔があってはっと息を呑む。 お陰で意識は一瞬で覚醒したけれど、覚醒したばかりの脳にこの視覚情報を与えるのは刺激が強過ぎる。 混乱するくらい寝顔が美しい。 俺の心臓も起床後直ぐに騒ぐ羽目になって、まるで文句を言いながら暴れているみたいだ。 暫くドキドキしたままその寝顔をじっと観察していたけど、ふと我に返った。 カーテンの隙間から差し込む光の明るさから判断して恐らくもうとっくに朝を迎えている時間の筈だ。 武内さんは仕事だから、何時出勤かは知らないけれど起こしてあげないといけない気がする。 睡眠は恐らく…いや、全く足りていないだろうなと申し訳なさを抱きつつ、控え目にとんとんと肩を叩いてみると形の良い眉がぴくりと動いた。 念の為もう一度肩を叩いて彼の名を呼び掛けると、閉じられていた彼の瞼がそろりと持ち上げられる。 起きた、と思って朝の挨拶を紡ごうとした唇が気付けば彼に塞がれてしまっていて。 驚きで固まる俺の身体をぐっと抱き寄せた彼が、殆どゼロ距離で囁く。 「セックスした後の朝は、こうやって起こすものだって覚えておいて」 [*前へ][次へ#] [戻る] |