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やっぱり…って言うか、そりゃあそうだよな。
自分で後ろを解して待っておけ、なんて流石に言わないか。
まあ俺だってそうだろうと思ってたけど…でも…
「まさか君がそんな解釈をするだなんて思いもしなかったし、ましてやそれを本当に実行するなんて、一体何を考えてるの?って訊きたいくらいだよ」
「ッ………」
すいません、と小さな声で謝ると静かに溜息を吐かれた。
俺が耐えられなくて逸らしてしまっていた視線を無理矢理合わせるかのように顔を覗き込んできた彼が、揺れる俺の瞳を見つめながら囁く。
「もっとムードを大切にしたかったし、言ってしまえば君の服だって僕が脱がせたかった」
「っ……」
「それはタイミングが悪かっただけかも知れないけど、だったら初めから一緒にお風呂に入るようにしておけば良かったよ」
「………」
「君を一人で待たせていなければこんなことにはならなかったって思うと僕には後悔しかない」
「ッ!……」
後悔、と聞いて胸を抉られるような痛みを感じてしまった。
そんなつもりはなかったのに、こんなにも彼を落胆させることになるだなんて。
俺の方こそ激しい後悔の念に駆られ、今度こそ目も合わせられなくてぎゅっと目を閉じると直ぐにそこに柔らかな感触が触れた。
それが彼の唇だと思ったら意味が分からなくて酷く混乱してしまう。
「勝手に目を閉じないで。あと勝手に勘違いして勝手に傷付かないで」
先程よりも穏やかな口調もだけど、”勘違い”と言う言葉を聞いて思わず目を開けて彼の表情を確認した。
「…勘…違い…?」と復唱した俺に彼が少し呆れたような表情でそうだと頷く。
「後悔って言葉を良くない方に捉えたんだろうけど、僕が後悔してるのは君が自分の手でアナルを解してる姿を見られなかったことだからね?」
「…………へ…?」
アナ……アナルが……何て…?
彼の言葉はすんなりとは頭に入ってこなかった。
間抜けな顔をして訊き返した俺に彼がもう一度溜息を吐く。
「そんなことする必要ないのに。君が自分でしてくれたことだと思うと、本当にどうしようもないよ」
どうしようもないくらいに、愛おしい。
呆れの混ざる表情で微笑みながら言われた台詞に、心臓をぎゅっと鷲掴みにされたような感覚になった。
溢れそうになっては無理矢理抑え込んで、ずっとそれを繰り返してきたけれど、もうその必要もないんだと思ったら感情の抑え方が分からなくなる。
「俺、朝からずっと、我慢してたから、少しでも早く、武内さんと…っ」
「分かってるよ。だから喜んでるんでしょ」
「っ……喜んで、ます…?」
「そう見えない?それも全部言葉にしてあげないと分からないって言うなら、そうするけど」
どうする?と問われた訳じゃなかったけど、俺はすかさず「して欲しいですっ」と答えた。
そんな俺にやっぱり彼は、どうしようもないなって顔をして笑みを零した。
存在を確かめるかのように俺の頬をゆっくりと撫で、それから彼が「嬉しいよ」と囁く。
「朝から我慢していたのは僕も同じだから。僕だって一秒でも早く君と繋がりたいと思ってた」
「っ…そんなこと言われたら、俺っ…」
「欲しがったのは河原くんでしょ?君が望むものは何だってあげるって、僕は前にもそう言ってる筈だよ」
そうだけど、そう言うことじゃなくて。
でも、それはつまり欲しがっても良いってことだと思うから。
だったら俺はもう、遠慮なんて出来そうにない。
「欲しいです。武内さんの全部、俺にください」
「…手加減しなくて良いんだね?」
「ッ、はいっ」
それは要らない、と答えた俺に向けて流麗に微笑んだ彼が「じゃあ、」と言って立ち上がりベッドから降りる。
そのままクローゼットの方へと向かった彼の背を焦がれるような思いで見つめていたら、直ぐに彼が何かのボトルを手に持ったまま戻って来た。
その中身がローションだと言うことが分かって、ごくりと喉が鳴る。
俺の視線に気付いた彼が揶揄うような笑みを浮かべ、それから自らが着ているスーツのジャケットを脱ぎ始める。
別に勿体振っている訳ではないんだろうけどその動作が俺には焦らされているように思えてしまった。
身体を起こしてベッドの上から彼の腕を掴み、ぐっと引き寄せると直ぐ驚いた彼の視線とぶつかる。
「…俺が、脱がせたら…駄目ですか…?」
彼の動作の一つ一つに煽られるのもあるし、彼の余裕を少しでも崩してやりたいと思った。
俺みたいに、我慢出来ないくらいに激しく求めて欲しくて。
何も言わずにベッドに乗り上げた彼が俺の手を取ってネクタイへと導く。
それが外せってことなんだと思うと、自分で言い出しておきながら緊張で手が震えた。
拙い手付きで何とか結び目を解き、しゅるっとネクタイを抜き取る。
それだけで気持ちが昂ってしまう俺はどうかしているんだろうか。
でも、相手が武内さんだと思うと凄く厭らしいことをしているような気分になってしまう。
逸る気持ちを抑えながら、そのままワイシャツのボタンも外そうと試みたけれど指が震えて中々上手くいかなかった。
途中で笑みを零した彼に「すいません…っ」と謝ると機嫌の良さそうな声で「煽ってるの?」と投げ掛けられる。
「えっ?」
「河原くんのそう言うところ、可愛くて仕方がないんだけど」
「ッ……」
今のは単純に慣れないことをしてもたついてしまっただけで焦らすような意図はなかった。
それを煽りだと捉えられてしまったのは本意ではないけど、でも、こんなので煽られてくれるならいっそもっと大胆なことをしてやりたいと言う気持ちになってしまう。
何とか全てのボタンを外し終えるとシャツとインナーは彼が自ら脱いでベッドの下に落とした。
上半身だけ裸になった状態の彼に見下ろされ少しの間見惚れてしまったけれど、ふっと笑った彼に触発され、今度は彼の履くズボンのベルトに手を伸ばす。
「そっちも?」と訊きながら笑う彼にはまだまだ余裕がありそうで、少しだけ口惜しくなる。
でも俺の目的はそればかりじゃなくて、ただ彼のことを気持ち良くしてあげたいとも思っている。
ベルトを外しズボンの前を寛げると下着越しの彼のソレが目に入り、ずくんと身体が疼いた。
「舐めたい、です…」
舐めても良いですかと訊くつもりが願望をそのまま口にしてしまった。
一瞬驚いたような反応を見せた彼が、直ぐに笑みを浮かべて「朝のお返し?」と訊ねてくる。
「そんなんじゃ、なくて…ただ…舐めたいと、思って…」
「…良いけど、僕も早く君に触りたい」
「っ……」
それには一瞬迷いが生じてしまった。
でも、俺ばかりして貰う訳にもいかない。
前回だって俺は殆ど何も出来ずに彼に与えて貰うばかりだった。
今朝もそうだ。
我慢が出来ないと言った俺の為にしたこともないフェラまでしてくれて、僅かな時間を俺の為だけに使ってくれた。
俺だって彼に返せるものがあるなら返したい。
言葉だけじゃなくて、態度でも示したい。
「俺が先にしたいです」と言うと、彼が少し考えるような素振りを見せた後に「分かった」と言ってベッドの上に仰向けに寝転んだ。
「僕の上に乗って。シックスナインをしよう」
「えっ…!?」
「…それくらいは流石に知ってるよね?」
「なっ、そっそう言うことじゃなくて…っ」
勿論知っているし知っているからこそ驚いているんじゃないか。
シックスナインって、だってそれ…
それには流石に動揺してしまったけど、熱を含んだ声で「早く挿れて欲しいんじゃないの?」と言われてしまったら、俺はもう頷くことしか出来なかった。
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