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上條が「流石にそれは…」と答えたので葉太も一度安心しかけたのだが。
「でも…」と言って提示された代替案が一悶着あった後に採用されることになり、葉太は今、上條と篤志に両脇を固められた状態でベッドの縁に腰掛けている。
何だこの状況は死ぬのか俺…と、もう既に心臓を破裂させそうな勢いでドキドキしてしまっている葉太を挟んで二人が言葉を交わす。
「そう言えば、僕と鈴鹿さんがリードしているって話は結局何だったんですか」
「あー。てか上條くんはその自覚ないの?」
「…何の話か僕には分かりません」
「もしかして葉太くんちゃんと言ってあげてない?」
「っ……」
その話はせめてこの状況になる前にしておいて欲しかった。
葉太はそう思ったが、この状況はどう見ても言い逃れなど出来そうにない。
何の言い訳なのか「言いはしたんですけど…」と前置きをしてから上條の方を向いた葉太が、小声で「俺が、上條さんのことが好きだって…話です…」と答えると上條は瞠目したまま完全に静止してしまった。
「あー、固まっちゃった。伝わってなかったみたいだねー」
暢気な声で話す篤志に葉太が助けを求めるように振り返って視線を投げる。
それを読み取った篤志が「いや、流石に告白の手助けまでは俺も無理」と言って苦笑すると、葉太は絶望したような表情で再び上條の方を振り返った。
今の間に我に返った上條が「何で君がそんな顔をするんだよ」と呆れた声で投げ掛ける。
「…すいません……でも今のは、そのままの意味なので…」
「……そう。じゃあ、僕の恋人になってくれるってこと?」
「えっ!?」
当然だが葉太はそんな発想には至っていなかった。
驚く葉太に上條が「そう言うことだろう」と投げ掛ける。
それには篤志も突っ込みを入れるかと思ったが、彼もまた上條に同調してしまった。
「そう言うことになるよね」と言って葉太の手を取った篤志が、恭しい動作でその手を両手で包み込む。
「俺のことも好きなんでしょ?じゃあ葉太くんは俺の恋人でもあるよね?」
「ええっ!?そっ、いやっ、そんなっ」
「まだ理解出来ないんだけど、葉太くんは僕と鈴鹿さんのことが好きってこと?誠くん達はどうなったの?」
「そっそうなんですっ!誠くん達もいるから…っ」
上條の質問に答える勢いで葉太はそのまま話の軌道を修正させようと試みたのだが、こう言う時に限って篤志が話の仲介役を買って出た。
かくかくしかじかだと、篤志から説明を受けた上條が最後に「成る程…」と呟いて葉太の目を真っ直ぐ見つめる。
「葉太くん」
「っ……は、い…」
「君にはこのまま僕と鈴鹿さんだけの恋人になるって言う選択肢をお勧めするよ」
「え?…えっ?」
葉太の気持ちを理解した上でそんなことを言い出した上條に篤志も「おいおい…」と初めこそ思っていたが、よくよく考えたら自分もそれを勧めるべきだと気付いて上條に便乗した。
「俺もその選択肢を推したい」と言い出した篤志に、葉太は本格的に困惑してしまう。
「昨日の感じだと残りのみんなはノンケっぽかったし、そう言う意味でも俺と上條くんだけにしといた方が…ってか俺達だけで十分満足させられると思うよ?ねえ?」
「そうですね。同性同士のセックスに関しては彼らに負けるとは思えませんし、僕と鈴鹿さんなら性格的にもバランスが取れているのでその点も推せると思います」
「確かに」
「いや、確かに、じゃないです。勝手に話を進めないでください」
「今強引にでも進めないと葉太くんが他の人達に対する感情を自覚してしまうだろ。それを未然に防ぎたいんだよ」
「堂々と言い直していただかなくても伝わってるので大丈夫です。申し訳ないですけど俺はその提案を採用することは出来ません。それが出来るならとっくにそうしてます」
返された言葉を聞いて上條と篤志は心の中で「確かに…」と答えた。
まあそれも望みがあるなら賭けてみたいと思った程度のことで、そんなことは二人共が初めから分かっていたことではある。
「じゃあそれは諦める。でも折角優位に立てているんだから、少しくらいその状況を満喫させて欲しいって言う我がまますら、聞く気がない?」
そう言われても、葉太には満喫と言う言葉が意味する状況が何なのかが分からない。
ただ、その気持ち自体は一蹴しようとは思わなかったので「何をすれば良いですか…?」と訊ねると上條と篤志が表情を輝かせた。
「とりあえず合鍵は受け取って貰おうかな」
「俺も次会った時に渡すね?」
やっぱりそうなるよなぁ…と葉太も合鍵に関しては諦めることにした。
とりあえず鍵の管理はどうすれば良いのかを二人に訊ねる。
「あー。上條くんのヤツは葉太くんと同じだから一緒に持ってたら紛らわしいかもね。普通にここに置いといて使う時だけ持って出たら?」
「でも、鍵って失くしたら大変なものだから、ちゃんと管理してた方が良いかなって思うんですけど…」
「その姿勢は僕も正しいと思う。でもまあ、二つくらいなら大丈夫なんじゃない?」
「いやぁ、それが…」
三つになるんですよね、と言って葉太が苦笑を浮かべると二人の表情が瞬時に固まった。
それは二人にとってあまりにも早い終了のお知らせとなってしまったのだが、何もそれは合鍵だけの話ではない。
「三つって何?もう一つは誰の?」
「………玲司さんに…次会った時に渡すって言われてて…」
「れいじ…」
「瀬戸くんですよ」
「ああ、……瀬戸くんかあぁ」
その名前を聞いて篤志は少し納得してしまっている自分がいることに悔しさを抱いていた。
瀬戸に対しては何かやってきそうだと多少なりと危惧していたところがあったのだ。
「思ったより行動が早かったなぁ…」
「彼は中々な問題児枠かも知れません。気付いたら独占されていた、なんてことも彼の場合は十分に有り得そうな気がします」
「分かるよそれ。ルールなんか関係ない、って感じだったもんね」
篤志の見立ては間違っていない、と葉太も内心ドキっとしていた。
彼らの間の取り決めを破ることはしないだろうが、恋愛におけるルールに関しては実際に本人がそんなものは関係ないと口にしていたのを葉太は聞いている。
「じゃあ次に俺らに仲間入りする予定なのは瀬戸くんなのかぁ。瀬戸くんとはいつ会うの?」
「いや、会う約束はまだしてないです。また連絡するって言われただけで…」
「…その辺は抜けてるんだね…」
「ついでだから訊いておくけど、今の段階で会うことが確定している人はいるの?」
「えーっと…」
迷いながらも「はい」と答えた葉太に、二人は益々表情を落胆させた。
「みんな手が早いなぁもう」
「まあそれは僕達が言えることでもないでしょうけど。ちなみに誰?」
「っ、それも言うんですか…?」
「今更隠す必要だってないだろ」
「……。誠くんとは…」
と、その名前が出た瞬間に二人が揃って溜息を吐いた。
早過ぎるその反応に葉太も唖然としてしまう。
「やっぱり誠くんか…あの子は強いな…」
「でもさ、誠くんに関しては正直俺らより先にもう既にって感じだったじゃん?だから誠くんに対して嫉妬するのは無駄だと思うよ」
「…そうですね。彼は圧倒的勝者ですしね。勝てると思うこと自体間違っているのかも知れません」
「いや、何でそんな…」
悲観しているのか励まし合っているのか。
いずれにせよそんな発言が彼らの口から出ることが葉太には理解出来なかった。
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