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再び無言になってしまった上條は葉太への配慮を忘れ一心に腰を動かした。
程なくして奥壁に叩き付けるような形で精を放った上條が、絶頂の余韻に包まれながらどさりと葉太の上に倒れ込む。


「…か、…上…條…さん…っ」

「…あー……ごめん……久々過ぎた…」

「ッ……」


上條のその余韻に浸る気怠げな声を聞いた葉太がビクっと身体を反応させる。
その動きは中に埋まったままの上條のソレにダイレクトに伝わり、低く甘ったれたような響きで微かに声を漏らした上條に葉太は早くも白旗を掲げたくなった。


「む、無理っ…えろ過ぎ、ます…っ」

「ん?」


のそっと上体を起こした上條が葉太の顔の両脇に腕を突き、間近から葉太の顔を見下ろす。
今の上條から恐ろしい程に放たれる色気はどうやらその声だけではなかったようだ。
見下ろしてくる彼の表情を目にした葉太があまりのことにひゅっと喉を鳴らす。


「それはどう言う反応?」

「ッ……あ、……あの……」

「何かえろいって言ってたな。僕のことだろうけど。ほんと好きだな、この顔」


そう言って上條が満足げな表情でふっと笑うと、茹蛸のように真っ赤になった葉太がその顔を両腕で覆い隠した。
その反応にも上條はクスクス笑いながら「隠すなよ」と言って直ぐに葉太の腕を退かしついでにシーツに縫い付けた。
抵抗する術を奪われた葉太が本格的に音を上げる。


「も…やめて、ください…」

「何を」

「そっ……な、なんか……別人…みたいで…」

「ん?…ああ、大丈夫。頭だけはもう冷静になってる」

「な、何も大丈夫じゃっ…ない…ですから…っ」


冷静かどうかではない。
いや、冷静なんだったらその惜しみなく振り撒いている色気と雄々しさを意思でどうにかして欲しい。
今の彼を何と表現したら良いのか分からないが、とりあえずこのままじゃまともに目を合わせることも出来ない。

そう言う意味での”大丈夫じゃない”と言う葉太の言葉だったが、上條も上條でちゃんと”頭だけは”と付けている。
つまり身体はまだまだ大丈夫じゃないと言うことだ。


「まあ、僕だけイったから葉太くんは大丈夫じゃないよな。安心してよ。とりあえず一回イったからもうどんなに煽られてもある程度は対応出来る」

「ッ、そういうことじゃ…」


ない、と否定しようとした葉太の中から上條が突然ずるりと性器を抜き取った。
慣れた手付きでゴムを外し、さっと縛ったそれをティッシュに包んでゴミ箱に投げた上條が直ぐにまた新しいゴムの包みを手に取る。


「えっ、あ、も、もういっ…かい…?」


もう一回するのか、なんて当然のことを訊いてきた葉太を上條は鼻で笑った。


「これでやっと落ち着いて葉太くんの体液を奪えるんだ。一回で終わるかどうか」

「なッ!?」

「まあ少なくとも葉太くんにはイきっぱなしの状態になって貰わないと困るから、君は桁が一つ違うだろうな」

「――!?」


桁が違うって何だ。
いやその前にイきっぱなしって何…!?

目を見開いて絶句する葉太に、上條が悠然とした態度で深い笑みを向ける。


「大丈夫。死ぬ程気持ち良くさせられる自信しかない」


だからそれは何も大丈夫などではないのだ、と心の中で叫んだ葉太だったが、生き生きとした上條の表情を見たらそれを言ってやろうと言う気持ちにはならなかった。
この状態の上條の方が上條らしい、と思ってしまったから。


「…俺……出来るだけ…喋らないように、します…」

「僕を煽らないようにって?無駄だよ。意識しなくても声なんて勝手に出るから」

「ッ、上條さんやっぱり、」

「今更何を言おうとしているのか知らないけど、僕は再三忠告した筈だよ。それを受け入れたのは葉太くん、君だろう?」


それを言われてしまったら葉太も何も返すことが出来ない。
ぐっと押し黙った葉太を見て上條が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

やっぱり上條さんには適わない…

悔しいけれど、彼とのそんな関係を容認してしまっている自分がいることに葉太は気付いていた。
そしてそれが”これで良い”じゃなくて”これが良い”と思える関係であることも。


「じゃあ、…俺が体液を奪いつくされて、干乾びちゃわないように…上條さんの体液も、俺にくださいね…?」


それには多少なりと仕返しの意図もあった。
それが見事上條にクリーンヒットしたようだ。


「……葉太くん。やっぱり君は馬鹿だ。馬鹿過ぎる。この状況でよくそんな台詞が言えたね。死にたいの?」

「ッ………どうせ…そうなるのかな、って…?」

「………分かった」


意識が飛ぶまで止めてやらない、と決めた上條だったが、それはもう口にはしなかった。
いや、出来なかった。
強烈なカウンターが返ってくることを恐れて。


「とりあえず今の内にもう一回だけ好きって言って」


そんな上條でも相変わらずその言葉は欲しがってしまうようだ。
そしてそれを葉太の意識がハッキリとしている内に求める彼だったが、それまで終始不安げな表情を見せていた葉太がそこで漸く笑みを見せた。
仕方ないな、と言う表情を作って「好きです」と返した葉太がその後、求められた以上の言葉を添える。


「一回だけじゃなくて何回も言いたいんですけど、それは要らないですか?」

「要る」


うっかり本能のままに即答してしまった上條が、答えた三秒後に大きな溜息を吐く。
「やっぱり葉太くんには適わないよ」と漏らされた言葉を聞いて葉太は彼と全く同じことを思っていたことに密かに驚き、そして笑みを零した。


***


それから数時間後のこと。


「葉太くん。葉太くん起きて」

「…んん……?」

「あ、起きた。おはよう」


身体を揺さ振られる感覚がして葉太がそろりと目を開けると、目の前にきっちりとスーツを身に纏った上條が少し身を屈めるようにして立っていた。
たった今働き始めた思考の片隅で葉太は昨夜の行為を思い出し、それから室内の明るさと上條の台詞とを繋ぎ合わせて今が朝だと言うことを認識する。


「おはよぅ…!?」


朝の挨拶を返そうとして、自分の声が酷く掠れていることをその耳で確認した葉太が驚きで目を見開く。
それに対して上條は冷静に「冷蔵庫に水が入ってるから好きに飲んで良いよ」と言った後、仕事用の荷物を手に持ち代わりにテーブルの上に何かの鍵を置いた。


「僕はもう出ないと遅刻するから行くよ。部屋の鍵はここに置いておくから、そのまま葉太くんが持っておいて。帰ってきた時にまた君の部屋に取りに行くから」


じゃあ、と言ってそのまま背を向けようとした上條を葉太が慌てて呼び止める。


「ちょっ、ちょっと…まって、ください…」

「酷い声だね。喋らない方が良いよ。ついでに暫く動かない方が良い。動けないだろうけど。ああ、そうか。待って、水を取って来ておいてあげるから」

「いやっ…」


葉太の言葉など聞く気もないと言った様子で一方的に話をする上條がふらっとキッチンの方へ消え、それから水の入ったペットボトルを手に戻って来た。
一先ずそれだけは有難く受け取っておこうと思った葉太が上体を起こそうと身体に力を入れ、瞬間全身を襲った激痛に再び大きく目を見開く。
僅かに持ち上がっていた身体を直ぐさまベッドに沈ませた葉太を見て上條が「動くなって言っただろ」と呆れたような声を掛ける。

それから上條は持っていたペットボトルのキャップを開け、その中身を自らの口に含んだ。
そのまま葉太に覆い被さるようにして身を屈めた上條がその口を葉太の唇に重ねる。
目を開いたまま硬直している葉太に上條が視線で「口を開けろ」と訴えるとそれが何とか伝わったらしい。
そろりと開かれた葉太の口に上條の口内で温くなってしまった液体が流し込まれる。

上條は葉太がそれを飲み干したのを確認すると、しっとりと濡れた葉太の唇をひと舐めしてから満足そうな笑みを浮かべた。


「この辺で止めておかないと本当に遅刻する。とりあえず、君は暫くここで寝ていなさい。良いね?」

「っ……でも…」

「言いたいことは色々あるかも知れないけどそれは仕事から帰って来たら聞くから。じゃあ、良い子にしてるんだよ」


そう言って本当にこの部屋から出て行こうとしている上條を葉太は唖然とした表情で見つめることしか出来なかった。
玄関へと繋がるドアを開けて廊下へと出た上條がふと立ち止まり、葉太の方を振り返る。


「鈴鹿さんと会うつもりなら今日はセックスは遠慮して貰った方が良い。本当に壊れるよ」


と言う爆弾を投下するだけして上條は直ぐに姿を消した。
パタン、と閉まった玄関のドアの音を聞いて、葉太が静かに溜息を吐く。

色んな意味で絶望的な状況に打ちのめされる葉太だったが、その後更に自分がスマホを自分の部屋に置いてきてしまったことに気付いてその心は見事に砕け散った。
全部上條のせいにしてやる、と心の中で悪態をつきながら、現実から逃れるように再びベッドの上で目を閉じた葉太であった。




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