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「葉太くん相手に斜めから切り込むのは逆に危険ですよ。彼には正面からの攻撃しか通用しません。驚く程に鈍感ですから」

「なっ…」


突然そんなことを言い出した上條に、葉太が唖然とした表情を向ける。


「無論、葉太くん自身も正面からの攻撃しか出来ません。今みたいに、それが見当違いな場所に当たることは多々ありますけど」

「っ、ちょっと、」

「ちなみにこれは僕の実体験に基づく確証のあるデータです。僕自身そうやって今まで何度も躱され続けてきたお陰である程度の耐性はついていますけど、聞く限り皆さんは彼と知り合って間もないようなので、まあ、ご参考までに」

「「………」」


大きなお世話だ。
そんなこと言って、単なる自慢じゃないか。

初めはそう思った六人だったが、淡々と事実を述べる上條の話し方にはやけに説得力があり、彼らもそれを受け入れてしまった。
唯一、好き勝手言われて少々カチンときてしまった葉太が上條に噛み付く。


「上條さんだって、全然そんな雰囲気出してなかったですよね?正面から攻撃された記憶なんてありませんけど」

「当然だよ。してないんだから」

「っ、はい?だったら俺が気付く訳ないじゃないですか…っ」

「君は僕の話を聞いていなかったの?僕は何度も躱され続けてきた、って言ったんだよ。それはつまりそう言うことだろう」

「え…?なん……もっと分かりやすい言い方してくださいよ」


鈍感なんですから、と嫌味っぽく言った葉太に上條は内心、本当にどうしようもないな…と呟いて、葉太の為に噛み砕いた言葉を口にした。


「僕は葉太くんが好きだよ」

「!?」

「僕がそれとなく好意を仄めかすような態度をとっても、何一つ気付かないくらいに鈍感な君が」

「ッ……」

「何の警戒もせずに可愛く笑い掛けてくれる君も、辛いことがあっても泣くのを我慢して必死に前を向こうとする君も、真っ直ぐに自分の夢を追っている君も、」

「っ、も、もう…」


それ以上は言わないでくれ、と止めようとした葉太に上條がもう一度「どんな君も好きだよ」と言って穏やかに目を細めた。

分かりやすい言い方をしろとは言ったけれど、まさかそんなことを言われるとは思わないじゃないか。
誰が皆の目の前で告白をしろだなんて言ったんだ。
まさか周りが見えていないだなんて、そんな訳ないだろうに。

そうやってすっかり心をかき乱されてしまっている葉太に、上條がとどめを刺す。


「僕が君に正面から攻撃をしたのは昨日が初めてだよ。僕に好きだって言われて、嬉し泣きしてたじゃないか。それも記憶にない?」


そう言って上條がふっと意地悪な笑みを見せた。
葉太もそれが揶揄われているだけだと分かっていながら、悔しくて噛み付いてしまう。
あれは好きだと言われたから泣いた訳じゃない、と。
でもそれは、その時に上條に言われた言葉を思い出して込み上げてきた感涙を何とか零してしまわない為の、強がりでしかなかった。

そんなこともしっかり理解している上條は満足そうな笑みを口元に浮かべ、それから、観客にさせてしまっていた六人の方へ視線を投げた。


「こんな感じです」

「「………成る程」」


その返しには二つの意味が含まれている。
葉太に対する攻撃の仕方をよく理解した、と言う意味と、もう一つは…


「実演してたんかーい!!」


そう、つまりはそう言うことだ。

葉太の叫びと共に上條の講義は終了となった。
お陰で洗脳のような状態を解かれた各々がそれぞれ不満を抱いたが、ここでまたぶつぶつ言い始めると折角格好を付けて協力すると言ったことが台無しになると気付いて止めた。

彼らが口にした”葉太の為なら”と言う言葉はでまかせではないのだが、正しくは”葉太を手に入れる為なら”である。
いずれは彼らも葉太を自らの手中に収めるつもりではいるのだ。
その為に自身の株を上げておこうと彼らが考えるのは当然のことで、彼らは元より協力するつもりなどない。
協力ではなく”利用”しようとしているだけだ。

実にしたたかな男達である。


「葉太くんが話に落ちをつけてくれたところで、そろそろ皆さんご帰宅なさった方が宜しいのではないでしょうか」


上條の申し出を突然だと思ったのは葉太だけだ。
その言葉の意図は当然彼らには伝わっている。


「俺、明日休みなんだよねー。葉太くんが良ければ泊めて貰えないかなー、なんて?」

「え、」

「「それは狡い(です)」」

「と言うより、ご遠慮いただきたい。今晩は僕が葉太くんを抱く日なので」

「「いや、」」


珍しく葉太の反応が周りと揃った。
何をまた勝手なことを言ってくれているんだ、と、涼しい表情をしている上條に葉太が呆れた眼差しを向ける。


「折角やんわり邪魔してあげたのに、そんなストレートに言う?上條くんって頭良いのかそうじゃないのかよく分かんないんだけど、それも計算なの?」

「計算なんて何もしてません。僕だけまだ最後まで出来ていないんですから、それくらい配慮してくれたって良いじゃないですか」

「配慮って…」


その事実をチラつかせなければしてやっていたかも知れないけど、と篤志を含めた他の者達が思う。
知ってしまったからには黙って見過ごすことも出来ないのだ。
自分以外の誰かが葉太とセックスをしている事実を見て見ぬ振りなど出来ない。


「俺は葉太さんの身体が心配です」


一週間もの間、代わる代わる男に滅茶苦茶にされ続けてきたのだ。
その身体にこれ以上無茶をしないであげて欲しい。
不意にそんなことを言い出した誠に葉太は若干感動をして「誠くん…」と気持ちの込められた声で彼の名を呼んだ。


「今日だって大事な撮影を終えたばかりで、本当はちゃんと休みたかっただろうに…」

「…成る程」


上條がそう相槌を打ったので葉太も安心しかけたが、上條の視線はその後武内へと向けられる。
彼は武内に「今のは演技ですね?」と確信を持った声で訊ねた。
葉太が「えっ…」と声を漏らした傍ら、そう訊ねられた武内が口元に微笑を湛え、満足気な声で「よくお分かりで」と答える。


「ちょっと、いい加減にして貰えません?それはもう言わないって話じゃなかったんですか」

「誠があまりにもしおらしい演技をするから黙っていられなかったんだよ」

「演技じゃないですって。俺が葉太さんに信用して貰えなくなったらどう責任取るおつもりですか?」

「責任なんて取る必要ないからね。河原くんの目にはもうフィルターが掛かってるみたいだから、彼が誠を信用しないなんてことは恐らく起きない」


そう答えた武内の心情がいまいち読み取れずに探るような目を向ける誠に対して、上條が「おっしゃる通りだと思います」とこれまた平坦な声で同意を示す。


「葉太くんはそもそも他人を疑うような子じゃないけど、君に対しては…いや、僕達に対してはより顕著にその姿勢が現れているんだと思う」

「そう。河原くんに掛かってるフィルターはここにいる全員に対してだよ。もしかしたら僕達だけじゃなくて、所謂イケメンが相手だったら掛かっちゃうのかも知れないけど」

「なっ…」

「あ、武内さんもそう思われますか?」

「と言うことは貴方も?」

「僕も思い当たる節があります。何よりもここに集まっている皆さんが確固たる証拠かと」


上條の発言を受けて、そこで初めて七人がお互いに顔を見合わせた。
それに関しては何を今更…と呆れる葉太だったが、葉太には彼らに言ってやりたいことが幾つかある。


「イケメンだから、じゃないです。確かに貴方達の恐ろしく整った顔は男の俺でも見惚れちゃうくらいですけど、顔以外の部分が魅力的過ぎるから誰か一人に決められないんじゃないですか」

「「………」」

「え、俺何か可笑しなこと言ってます?」


いや、そうじゃない。

無言で見返してくる七人の反応に疑問を抱いた葉太だったが、彼らもそんなことは考えていない。
単純に、葉太に対する想いを募らせていただけだ。




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