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怒っていると言うよりかは傷付いている、と言うのは葉太のその表情を見れば直ぐ分かり、一斉に動揺し始めた七人の成人男性。
「ごめん葉太くん!そんなつもりはなかったんだけど、今のはそう聞こえちゃっても可笑しくなかったよね。酷いこと言ってごめんね?」
「それだけ葉太に会いたくて仕方がないってことだから。そんなの葉太の予定とか気持ちを優先するに決まってんじゃん。な?」
「そもそも河原さん主体の関係、だからな。私達はあくまでも君の言うことには従うつもりだよ」
「河原くんはこれから仕事が増えていくだろうし、そうなると忙しくなるから、今会える内に会っておきたいって言うのが正直なところではあるよ。でもそれは僕達の勝手な考えだからね」
「俺も言い方を間違えたと反省しています。あくまでも河原さんに予定がなければの話だと言うことは弁えていますから。俺自身も突発的な仕事が入って休日がなくなることだってありますし」
「僕は直接伝えた通り、何があっても一生君を応援すると決めているから。見境なく君を襲ったりはしない。君が仕事に支障をきたしてしまわないよう、初めから自重するつもりではいたよ」
「俺だって、俺が葉太さんよりも自分を優先させることはないです。何だかんだ俺は、貴方のことを諦めなくて良いならもうそれだけで十分だと思うくらい、貴方との関係を大切にしたいと思っていますから」
「……皆さん……」
それぞれに思い思いの言葉を掛けられ、すっかり感動してしまった葉太が目元を潤ませる。
それを見て愛しさを募らせる七人だったが、それと同時に今直ぐ彼を抱き締めてやることが出来ない現状にもどかしさも抱いていた。
ただ、それは葉太とて同じである。
今のやり取りを見ていて葉太も彼らの気持ちを再確認することが出来たし、自分自身の気持ちも確かなものだと実感した。
身体だけじゃなくて、心もちゃんと通わせたい…と。
「やっぱり俺…皆さんのことが好きみたいです」
「「ッ!」」
「セフレって言い方は良くなかったなって、俺も反省しました。俺だって、皆さんの身体だけを求めている訳ではないです。ただそれが一人に絞れないってだけで、本当は…」
「ごめん葉太くん、僕が関係を乱すような発言をしなければこうはならなかった。僕が大人気なかったよ。だからもう良い。セフレ協定でも何でも結ぶから」
もうそんな辛そうな顔はしないで欲しい。
そう言った上條の方が苦しそうな表情をしていて、葉太は益々胸を打たれてしまった。
じわじわと込み上げてくる温かい感情を溢れさせないようにと、握った拳にぐっと力を入れた葉太が再度彼らに問う。
「本当に…それで良いんですか…?」
「良いって言ってる。僕だって葉太くんに会えなくなる方が困る」
「…皆さんも…?」
葉太の問い掛けに、その場にいた全員がしっかりとした頷きで答えた。
それを確認した葉太が「じゃあ、提案なんですけど…」と静かに申し出る。
実は葉太も、目の前で交わされる議論をただ黙って聞いていただけではない。
今後この関係を続けていく為にはどうするのがベストなのかを彼なりに考えてはいたのだ。
「皆さんが都合の良い時に連絡をして貰って、俺がそれに応えるって言うのを基本的な形にさせて貰いたい、です」
「会えるかどうかは葉太次第ってこと、だよな?」
「そう、ですね。俺もスケジュールが安定している訳ではないので、この日は絶対〜とか、この曜日は〜とか、確定は出来ません。でも、出来るだけ皆さんと公平にデート出来るように…あ、デートって言っちゃった」
「「デートで良い(です/よ)」」
「あっ……はい。皆さんと、デート出来るように…誰かだけを優先するようなことはしないって、約束します」
完全に平等にすることも難しいかも知れないが、葉太自身がその気持ちでいてくれると言うことか…と、各々同じ解釈をしてほぼ同時に「成る程…」と相槌を打った。
葉太が主体だと言ってしまった手前、今更それを覆すようなことも言えないことは彼らも理解してる。
会いたいと思った時にそれを伝えることが出来るだけまだましか、と思うしかない。
「急な仕事が入ってドタキャン、とかも起きてくると思うんですけど、その分はどうにかして埋め合わせしたいなって思いますし、」
「「埋め合わせ?」」
「っ……いや、全然、具体的に思い付いてる訳じゃないです」
そんなに反応を示されると思っていなかった葉太が若干焦りながら言葉を付け足す。
一斉に目を輝かされるのって恐怖でしかないな…と思いながら。
「じゃあもしそうなった時は河原くんが僕達のお願いを一つ聞いてくれるって言うのは?」
「え?」
武内の提案に対して「まあ、悪い提案ではないな…」と思った六人だった、が。
葉太自身が「そんなのなくても皆さんのお願いなら何でも聞きますけど…」と答えたことによって彼らはそれぞれ天を仰ぐことになる。
逃げたと思ったら追い付いてきて更には追い越してく葉太の発言に彼らも振り回されっ放しのようだ。
「あー、ヤりてえ…」
しみじみと漏らされた瀬戸の呟きに葉太がぶわっと顔を真っ赤に染め、他の六人が激しく同意を示す。
「葉太くんって意味不明なくらい男心ついてくるよね?いる?こんな子」
「今のが計算された発言だったら、それが出来る子は山ほどいるでしょうけど。河原くんはそうじゃないからなあ。末恐ろしいよ」
「俺も武内さんもそう言うことが出来る人が周りに沢山いるから、見るだけなら嫌と言う程見てきましたけど。葉太さんはどう見ても違うって言うか、別次元にいますよね」
「突き抜けて可愛いよね。うちのタレントだけで見ても彼に適う子はいないって言い切れるよ。悲しいけど」
「ちゃんと身体は男なのになー。でも俺、葉太には抵抗なく突っ込めたんすけど、何か男を惑わすフェロモンでも出てんのかな?」
「出てる、と思います。俺も同性とセックスをするのは初めてでしたけど、女性ですらアナルには抵抗があったのに、それが河原さんだと思うと興奮しかしませんでしたから」
「そう言う体験談は語らないでいただきたい」
しかめっ面で文句を垂れた上條に葉太は激しく同意した。
さっきから何かとツッコミを入れてはいたものの悉く無視されていたのだ。
頼むから本人の目の前でそんな話はしないで欲しい、と言い掛けた葉太だったが、上條の台詞には続きがあった。
「僕はまだ彼を抱けていないんですよ」
そう言うことなんかい!と葉太が叫んだのは言うまでもない。
まるで葉太が悪いかのように恨みがましい視線を向けてくる上條に葉太もじと目で応戦する。
「あー、それはまあ、どんまいとしか言いようがないね。でも一回抱いちゃったらマジで抜け出せなくなると思うから気を付けてね?」
「ああ、それはご心配なく。僕はゲイです」
「…そうだったんですか」
堂々と公言した上條だったが、静かに落とされた笹野の呟きを聞いて、しまったと言う顔をした彼が「…笹野さんの前だった…」とぼやく。
笹野は知らなかったから驚いただけで、そのことに対して批判的な気持ちを持った訳ではない。
「私の前だからと言ってそんなにお気になさらないでください。貴方が同性愛者であることが周りに悪影響を及ぼす訳でもないのですから」
「…そう言っていただけるなら。ではやはり、葉太くんが絡む時はお互いに都合良く立場を忘れることにしましょう」
「そうですね。私もその方が助かります」
まるで業務提携でも結んだかのような二人のやり取りに周りが苦笑を浮かべる。
まあそれも間違いではない。
言い方が違うだけで、そもそもセフレ協定などと言う言葉が存在するのかも分からないし、と葉太は思った。
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