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怒られてももう怖くなくなった…と言うか、何だこの幸せな時間は…とすら思ってしまっている。
段々とグループ通話の利点を理解し始めているようだ。俺自身が。


『そろそろ話を戻した方が良いと思うんだけど、その前に河原くん。僕にだけ何もないまま終わらせるつもり?』


そんな訳がないよね?と言う顔をしている武内さんを画面越しに見て、ふと違和感を抱いた。
始めはその正体がよく分からなかったけど、画面を睨むように見ている俺に対して彼が『どこ見てるの?』と訊いてきたことでその正体が判明する。

成る程、そう言うことか。

理解して直ぐに「これだと目が合わないですね」と呟くと、武内さんも俺が言いたいことを理解してくれたようだ。
ふっと笑った彼が『今日は皆いるから丁度良かったんじゃない?』と意味深な発言を返してきたことにより、またもや周りが反応を示してしまう。


「え、急に二人の世界入るじゃん。普通に吃驚したんだけど」

『そちらの方々にそれを言える権利はないと思いますけどね』

『それもそうなんですけど。武内さんとだけ目を合わせようとするのってちょっとどうなのかなって、俺は思いましたけど』

『ふふ。ごめんね。僕と河原くんの間ではそう言う決まりがあるから』

『何ですかそのルール。話す時は相手の目を見て話すってことですか?』

『そんな普通のことあえて決まりにする意味ある?』


呆れたような口調で投げ掛けた玲司さんに対して武内さんは直接答えようとはせず、俺に向かって『って言ってるけど、説明してあげたら?』と意地悪な表情でパスを回してきた。

それは説明しちゃって良いんだろうか。
篤志さんにしろ諒太さんにしろ、何だか皆が次々とカミングアウトして言ってるような気がするんだけど。
そう言う流れが生まれちゃってる訳じゃないよね?


「説明って言っても…まあ、そうしたいからしてるって言うか…」

『そうしたいのは僕の方ね』

「っ…あの、それ、良いんですか…?」

『何が?別に隠すようなことでもないと思ってるけど』

「…そう…ですか…」


武内さんがそう言うなら良いんだろう。
皆も何の話か気になって仕方がない様子だったからそれに関しては俺の口からさらっと説明することにした。


「武内さんはその…俺の目?が、好きみたいで」


単刀直入に言ったら『は?』と「目?」の二文字が前と横から飛んできた。

武内さんを見たら笑っているから、どうやら彼はこの状況を楽しんでいるようだ。
俺に説明させて何の得があると言うのか。


「それって俺の指フェチと同じ感じ?」

「っ……あー、多分…」


そこで篤志さんも言っちゃうんだ…と若干の不安を抱いていたら、諒太さんが「それぞれ何かしらのフェチは持っているみたいですね」と、どっちに対してか分からないフォローを入れた。

いや、この場合は皆に対するフォローか。
フェチの一つや二つ持っていたところで別に恥ずかしいことでも何でもないですよね〜的な。

俺としてはここで全員分のそれをバラされると非常に恥ずかしいからこの辺りで止めておいて欲しい、と思ったのに。


『じゃあ武内さんは葉太の目を見たら勃起するってこと?』

「!?」


それはもっと言い方と言うものがあったんじゃないだろうか。
間違っていないのかも知れないけど、いや、必ず勃起するって訳でもないだろう。
何てことを言ってくれたんだ。

玲司さんのあまりにも明け透けな発言には武内さんを始めとする大人組から苦情が入った。


『瀬戸くんはもう少し発言を気を付けた方が良いよ』

「ほんとだよ。今の流れだと俺にも飛び火しちゃうでしょ」

『飛び火って?葉太の指見たら勃起するってことですか?』

「え、上條くんこの子どうにかして」

「…無理ですよ。彼の場合は挑戦するだけ時間の無駄です」

『何その言われよう。別に隠すことじゃないって言ったのは武内さんじゃないっすか』

『それとこれとは話は別だよ。言い方を気を付けようって話をしてるんでしょ』

『言い方って。じゃあなんて言えば良かったんですか?ムラムラする?興奮する?』


『全部一緒じゃん』と言った玲司さんに、それまで呆れた反応を示していた人達が揃って口を噤んだ。

まさかの玲司さんに軍配が上がったことに対して密かに心の中で「おお…」と感嘆の声を上げてしまった俺だけど、そんな呑気なことをしている場合ではない。
このままだと玲司さんが『俺も葉太の声聴いたら勃起する』とか言い始める可能性があるから、何としてもここで流れを断ち切っておかねば。


「あのっ!そう言う話は俺の前でされると困るって言うか、恥ずかしいので、このくらいにしていただけたら…」

『別に葉太が恥ずかしがることじゃなくない?俺ら側のフェチなんだから』

「俺ら側、ってことは、瀬戸くんも何かあるんだね?」


ああこの感じの玲司さんはまずいなと思ったところで篤志さんが最悪のパスを回してしまった。
恐らくこの後、玲司さんが華麗なゴールを決めて試合終了と言う運びになるだろう。

そう思って諦めかけていたら、にやっと笑った玲司さんが『俺のは言わない』と答えたから目の前に希望の光が差し込んだ。


「え、ずるくない?隠すようなフェチって何?そんなヤバいの何かある?」

『別にヤバくないですよ。寧ろ普通』

「じゃあ言えるよね?」

『俺のフェチなんて知ってどうするんですか?別に興味ないでしょ』

「そりゃあそれ単体だったら興味はないけど流れって言うか、隠されたら気になるじゃん」


ねえ?と誰にでもなく同意を求めた篤志さんに周りが「まあ…」と言う反応を示す。

恐らくこの流れを止めるなら今しかない。


「まあ玲司さんもそう言ってますし、とりあえずこの話は――」

「葉太くんに訊いたら分かることなんじゃないですかね」


このタイミングで何てことを言うんだ!

まさかの諒太さんの裏切り行為に愕然とする俺の横で、篤志さんが「確かに」と呟いて視線をこちらに投げてくる。


「…え、言いませんよ?」

「どうして?」

「それは、…玲司さんが言いたくないって言ってるからです。俺は玲司さんの味方です…!」

『ふはっ。流石葉太。最高。愛してるよ』

「!?」


ちょっと待ってくれ。
流石にそっちはノーガードだって。

予想外の攻撃に意表を突かれている隙に、誠くんが不満そうな態度で参加の意を表明してきた。


『こっちにも飛び火すると思って黙って聞いてましたけど、結果的に美味しい思いが出来るなら俺も参戦して良いですか』


いや誠くん、何故そうなる。
そんなことが目的で公表するような話じゃないと思うよ。
しかも玲司さんは隠してくれてたから俺がフォローに回っただけで、そんなことを暴露しても美味しい思いなんてしないからね?


「おお、誠くんのフェチはかなり気になるわ」


篤志さんもちょっと黙ってて欲しいんだけど、今手を握ったら駄目かな。
駄目か。黙ってはくれるかも知れないけど別の問題が起きそうだよね。
止めといた方が良いね。うん。


『別に俺も普通ですよ。脚フェチってだけなんで』

「ちょっ…!」

「あー、脚かぁ。確かに普通って言うか、男なら脚フェチは多いかもね」

『その言い方をされるとちょっと。俺は葉太さんの脚にしか興奮しません』

「もおおおおお」


ゴールを決めたのは誠くんだった。
誠くんのせいで試合が終了してしまった…と言うか、俺の感情が崩壊した。

『恥ずかしがってるんですか?』と意地悪な表情で訊いてくる誠くんを画面越しに睨むと『可愛い』と返されてその場に項垂れる。

どうして俺の方がダメージを食らってしまっているんだ。
俺はただこの容姿で存在しているだけだと言うのに。




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