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夏場と言うこともあって葵くんとお風呂に入っている時間はそう長くはなかった。

当然、先生が心配していたようなことも何もなく。
葵くんが普段どうやって過ごしているかとか先生の話も色々と聞かせて貰って、それ自体は非常に有意義な時間を過ごすことが出来たと思っている。

問題だったのはその後の話だ。
今日ここに泊まらせて貰うことになったのは急に決まったことだから着替えなんてものはなく、またしても先生の服を借りることになったんだけど。


「え、これ…?」


どう言う訳か、脱衣所に用意されていたのは普通の服ではなく薄いグレーのバスローブだった。
それを手にしたまま固まる俺の横で葵くんが「着ないの?」と不思議そうに訊ねてくる。


「え、もしかして先生も普段からバスローブ使ってる?」

「いや、見たことない」

「え?そうなの?じゃあ何でこれ…」

「さあ?もらい物じゃない?夏とか冬とか色々届くじゃん」


それだと思うけど、と言ってさっさと自分のパジャマを着てしまった葵くんがタオルで頭を乾かしながら「そんなにいやなの?」と投げ掛けてくる。
「いや、そう言う訳じゃ…」と答えて渋々袖を通すとサイズがピッタリだったから驚いた。

まさか俺の為に用意された物とか…な訳ないよね。
だったらお風呂に入る前に交わしたやり取りが嘘だったと言うことになる。
先生は俺が着られそうな物を探しておくって言ってたから。


「いいじゃん。似合ってるよ」

「っ……ありがとう…」


可愛らしい微笑み付きでそんな台詞が吐ける葵くんは将来モテ男になること間違いなしだろう。

何なら先生よりも器用そうだ、なんて失礼なことを考えつつ、葵くんと一緒にリビングへ戻る。
先生はパソコンを開いて仕事か何かをしていたようだったけど、俺の格好を見るなりふっと笑って葵くんと同じ台詞を口にした。


「似合っているな」

「ッ…いや、何でこれだったんですか?普通にTシャツとかで…」

「頂き物なんだが私にはサイズが小さくてね。君には丁度良いようだから、そのまま持って帰って貰っても構わないよ」

「いやっ…」


持って帰っても着ることなんてないと返そうとしたら葵くんが「また来た時の為にうちに置いとけばいいじゃん」なんて言うから先生もその気になってしまい。
結果として、笹野家に俺が宿泊した時用のバスローブが常備されることになった。

もうそれは良い。
自分としては全く似合っていないと思ってるけど二人が似合っていると言ってくれたから見た目の問題はまあ良しとする。

それよりも、だ。

葵くんに先にドライヤーを使って貰うように促して、彼がお風呂場に向かったことを確認してから直ぐに先生の元に歩み寄る。
「先生、パンツ忘れてません?」と念の為ボリュームを抑えた声で確認を取ると、すっと立ち上がった彼が俺の身体を抱き寄せ、布越しにお尻を一撫でした。


「ちょっ…と…!」

「その格好だと誘われているみたいだ」

「ッ…先生がっ、用意したんじゃないですか…っ」

「ふ。そうだが、君も少し色気が増したんじゃないか?」


早く葵が寝る時間になって欲しいよ、と耳元で囁いてきた彼に色んな意味で目眩がした。

俺の愚息も今直ぐに鎮まって欲しいよ。


「このまま過ごせってことですか…?」

「この後ちゃんと洗濯して乾燥も済ませておくから、それが終われば君の好きにしたら良い」


洗濯して乾燥してって、それは何時になるんだ…
それこそ、その時にはもう葵くんが寝る時間になっているんじゃ…

それで俺は”君の好きにしたら良い”と言う言葉がどんなに意地悪な言葉かに気付いてしまった。
恨みがましい視線を向ける俺に先生が意地悪な表情で微笑む。


「葵くんが近くで寝てるのに、そんなこと出来るんですか…?」

「君が声を抑えてくれさえすれば問題ないだろうな」

「ッ…気持ちの、問題は…」

「それは君もよく分かっていることなんじゃないか?」


そう言って、バスローブの袷から侵入してきた手が俺の馬鹿息子に触れた。
その状態を確認して直ぐに手は離れていったけど、ふっと厭らしく微笑んだ彼に「葵の前では我慢するんだよ」と囁かれ、余計に下半身に熱が溜まってしまう。

ドライヤーの音が止んだのが分かって直ぐに身体を離したけど、赤くなってしまった顔と布の下で主張するソレは葵くんが戻って来るまでの短時間ではどうすることも出来なかった。

先生のお陰でそれから葵くんが寝るまでの間、俺はずっと悶々とする羽目になる。
流石に反応は治まっていたけど気持ちがそわそわしてしまい、漸く先生と寝室で二人きりになれた時は抑えていた感情が爆発してしまって大変だった。


「さっきは嫌がっていたように見えたが、随分と積極的じゃないか」

「先生のせいですっ…ずっと、我慢してて…ッ…」

「私はそれよりも前から我慢していた。君が葵に対して優しい言葉をかけてくれていた時からずっと、君のことを抱き締めたくて仕方がなかった」


そう言って俺の頬を撫でた先生の表情には温かく穏やかな気持ちと、激しく燃え上がってしまいそうな感情の両方が映し出されていた。
それに触発された俺も、彼の手を取ってその指にそっと唇を寄せる。


「葵くんに言った言葉は全部本心です。勿論葵くんの為でもあるけど、それが先生の為にもなれば…」

「すまない、全く抑えられそうにない」


そう言って俺の口を塞いだ彼が、昼間の行為中にはなかった、遠慮も余裕も感じられない貪るようなキスを与えてきた。
その激しいキス自体もそうだし、近くで葵くんが寝ていると思うと罪悪感と背徳感で変に気持ちが興奮してしまう。


「せんせ…声…出ちゃう…っ」

「葵に聞かれても良いのか?」

「んっ…でもっ…出来な…っ」

「我慢出来ないなら私のモノは挿れてあげられないな」


それで良いのかと問われ慌てて口元を手で覆うと「良い子だ」と言って頭を撫でられた。
その一言で完全に落ちてしまった俺が瞳を蕩けさせると、先生が満足そうに目を細める。


「可愛いな、本当に」

「ッ……」

「我慢が出来ないのは私の方だ。昼間にあれだけしたと言うのに、君が側にいるだけで欲情してしまう」

「っ……それは、俺も…」


口元から手を離して答えると先生の顔が降りてきて唇同士が触れ合った。
それから耳元へと移動していった唇が甘い囁きを吹き込んでくる。


「君の可愛い声を聞くことが出来ないのが残念だよ」

「んっ……せん、せ…」

「そうやって呼んで貰えないのも、好きだと言って貰えないのも…折角こうして、目の前に君がいるのに…」


勿体ない、と吐息混じりに囁かれる言葉が耳から脳へと伝わって甘い痺れを生む。

全く声を出せない訳じゃないんだ。
大きな声さえ出さないように我慢出来れば、俺だって何度も呼びたいし何度も好きだと伝えたい。


「先、生…好き、です…」


俺の囁きを拾った彼が顔を上げて視線を合わせてくる。
何かを堪えるような表情の彼にもう一度「好き…」と囁きを漏らすと強引に唇を塞がれた。


「っん……せん、せ…っ…」

「私も好きだよ……好きで堪らない…」


キスの合間に囁かれる言葉を聞いて胸を震わせる俺に、先生はもう一つ追加でご褒美をくれた。


「君のことが…葉太くんのことが、好きだ」

「ッ!!」


先生に名前で呼ばれるのはこれが初めてで、驚きと感動で全身に鳥肌が立ってしまった。

それ以降、再び名前で呼ばれることはなかったけれど、その一回が俺にもたらした喜びは途轍もなかった。




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あきゅろす。
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