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こんなにも堂々とお断りしているのに、それでも諦めない彼らの精神は寧ろ尊敬に値するものなんだろうか?

なんて呆然と考えていたら、それまで沈黙を貫いていた岡本さんが「あの…」と控え目に声を上げた。

俺は何故この人のことを忘れてしまっていたのか。
他の三人の主張が強過ぎるせいで、彼らといると常識人は存在が霞んでしまうのかも知れない。

唯一残っていた希望の光とも言える存在に気付いて、彼に救いを求めようとしたら。


「今言っとかないとまずいだろうなって思ったんで言うんですけど、俺も田中くんのこと好きになったみたいです」


…………。


「「えええええええ!?」」


衝撃の告白に場の空気が完全に停止してしまった後、俺と浅尾さんと矢野さんの叫び声が個室に響き渡った。

植田さんだけが忌々しそうに「やっぱり佑規も狙ってたのか…」と呟いていて、そっちにも衝撃を受けてしまう。

やっぱりって何!?今までそんな要素全くなかったけど!?


「え、俺全然気付かなかったんだけど…いつから狙ってたんだよ!?」

「狙ってたって言うか…、田中くんって素直で正直だし、一緒にいて楽だからいいなと思ってたら…まあ、いつの間にか」

「それって友達としてじゃねーの!?ほら、そう言う勘違いってよくあるじゃん!?」


うん、分かる。矢野さんの言ってることは俺も滅茶苦茶分かるよ。
でもそれ、特大ブーメランとして貴方も食らってくれないかな。

俺はそれと全く同じことを矢野さんにも言いたいよ。


「勘違いではない…ですね。でも俺は修さん達に勝てるとは思ってないんで、ライバル視とかはしなくても」

「そんなこと言っといて裏では虎視眈々と着実に自分の地位を上げていこうって作戦なんだろ…!」

「いや、そんなこと出来ませんよ」

「じゃあ紘夢!俺ら四人の中で誰が一番好き?」

「はい?…好きって、そう言う意味なら一番も何もないですよ」

「じゃあ人としてなら?」


人としてなら。
今その流れでそれを訊いてくるってことは、俺の答えが分かってて訊いてるんだよな?

そう言うことだよな?と思いながら「…岡本さん」と答えると、矢野さんが「ほらな!!」と言って岡本さんに鋭い眼差しを向けた。

怒りの矛先が俺ではなく岡本さんに向けられていることに申し訳なくなったけど、岡本さんも岡本さんで自分の名前を呼ばれたことに驚いているようだ。
矢野さんの視線を無視して丸くなった目で俺を見ている彼に、心の中で「そりゃそうでしょ…」と返す。

告白されてしまったのは全くもって予想外だったけど、今のところ彼からは何も危害を加えられていないからマイナス要素がない。
寧ろ俺の中の好感度はかなり高い方だ。


「もー何でこうなるかなー」

「そんなの俺の台詞ですよ…俺が一番最初に紘夢くんのことを好きになったのに…」

「拓はヘタレなんだよ。俺だったら好きになった段階でライバルが現れる前に自分のものにしてただろうな」

「それはだって…!突然男から告られて紘夢くんも困ってるだろうなと思ったから…そんなにグイグイはいけなくて…」

「だからヘタレだって言ったんだよ。告白までしたなら迷わずにいくべきだろ。それにこの子は結構押しに弱いところがあるし」

「いやいやいや」


それは違うから。俺が押しに弱いんじゃなくてあんたらの押しが強過ぎるだけだから。

そう思ったけど、本当にそうなら俺は今ここにいないんじゃないか…と言うことに気付いてしまって。
そんな俺の考えを見透かしたかのように、それまでの茶化したような空気を一切消した植田さんが、真剣な表情で訊ねてくる。


「紘夢くんも、本気で嫌がってるなら、俺達から逃げるタイミングなんて幾らでもあったよね?」

「ッ……」

「口では拒絶してるけど、実際の行動がそれに伴っていないんじゃないかな…と思うんだけど」

「………」


核心を突いた植田さんの発言に、俺は何も返すことが出来なかった。

この人達といると楽しい…とか、この人達に好きだと言われて嬉しい…だとか。
矢野さんの例の件もあったから余計に、本当は遊びだったと分かった時が怖くて、必要以上に彼らの気持ちを否定している、とか。

そんなことは俺だって、気付いていたことだ。

でも、それを認めるのが怖くて。
同性である彼らを好きになり掛けている自分を認めてしまうと、何かが壊れるような気がして。

そこから先に進む勇気が俺にはなかった。

黙り込んだ俺を、植田さん以外の三人が心配そうに見つめてくる。

植田さんにはもう俺の気持ちが伝わっているのかも知れない。
分かっててそれを俺に言わせようとしているんだろう。

どうしよう。
言うべきか、言わないでおくべきか。

暫く迷ったけれど、結局ぽつりと彼らに対する思いを零してしまう。


「俺は、貴方達と付き合うことは出来ません。だって、貴方達から一人を選ぶなんて…俺には出来そうにないから…」


それがもう答えになってしまっていると言うことに、残念ながら気付かない人はいなかったようだ。

俺の言葉を聞いて衝撃を受けたように目を瞠る彼らを見て余計に羞恥心が煽られてしまう。
無言はきつかったから「頼むから黙らないでください」と訴えると、浅尾さんがはっと我に返ったような顔を向けてきた。


「紘夢くん、今のってつまり――」

「いっ言わなくて良いですからっ!そんな公開処刑みたいな気分味わいたくないですからっ!」


直接的な言葉を口にしようとした浅尾さんの声を遮った後、自分の顔がやけに熱いことに気付いた。
ふいっと逸らした視線の先にいた矢野さんが、恐らく真っ赤になっているだろう俺の顔を見てふっと表情を緩める。


「紘夢」

「ッ…そう言う目で見てくるの、止めてください」

「そう言う目って?」

「っ……ペットを見る目、みたいな…?」

「違う。恋人を見る目だよ」

「誰が恋人だ!」


勝手に恋人にすんな!
あと恋人って言い方恥ずかしいから止めろ!

それじゃあまるで俺が告白を受け入れたみたいだけど、それは違うから。

俺はこの四人から一人を選ぶなんて出来ないって言ったんだよ。
それはつまり俺が彼らの告白を受け入れることはないと言うことだ。

間違った解釈をしないで欲しいと伝えても、彼らは嬉しそうににやつくばかりで。


「紘夢のツンデレがグレードアップしてるわ」

「デレが圧倒的に足りなくないか」

「でも、照れてる紘夢くんも可愛いですよ」

「ああもうっ…うるさいから黙っててくださいよ…!」

「黙るなって言ったのは田中くんじゃん」


それはそうだけど!
誰も恥ずかしいことばっかり言えなんて言ってないだろ!

くすくすと笑われて余計に溜まってしまった身体の熱をどうすることも出来ず。
誤魔化すように手元のビールを煽ると、向かいにいる植田さんが意味深な視線を向けてくる。


「そんなに飲んで良いの?この状況で酔った紘夢くんを見たら、俺達何するか分かんないよ?」


そんなにも何も、今更だよ。俺の頭は既に正常ではないんだから。

もう酔っ払ってるんだよ。さっきのも酔った勢いってヤツだ。
素面の俺だったら絶対にあんなこと言ってない。




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