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俺の「うわぁ…っ」と驚いた声と浅尾さんの悲鳴のような声が重なる。


「紘夢って酒弱いんだ?」

「え?弱くないよ?」

「ふはっ。そうだね、弱くないねー」


上機嫌に笑う矢野さんに頭を撫でられ、その手の感触が気持ち良かったからそのまま彼の身体に体重を預ける。

あれ、矢野さん何か良い匂いする…


「くすぐったい」

「だって矢野さんいー匂いするから。なに?香水?」

「ん?何だろ。柔軟剤かな?紘夢も良い匂いするよ」


匂いにつられて首元をすんすんしていると、仕返しとばかりにぎゅっと抱き締められ鼻先を髪に埋められた。
汗かいているのになぁ…と考えながらもそのまま矢野さんの好きにさせていたら、もう何度目か分からない浅尾さんの叫びが耳に届く。


「ちょっと修さんっ!そう言うのずるいですよ!」

「何がー?紘夢〜拓が怒ってるんだけどどうしよう〜」


笑いながら「こわーい」と訴える矢野さんをすかさず浅尾さんが咎める。

確かに、なんか怒ってるっぽい。


「こわいの…?じゃあ、俺がぎゅって、しててあげる」

「うはっ…紘夢の可愛さの方が数万倍怖ろしかった」


何が怖いのかは分からないけど取り敢えず矢野さんを守ってあげなきゃと思って、しがみ付くように矢野さんの身体を抱き締め返した。
そしたら後ろから「紘夢くんッ!」と鋭い声が飛んできて、何事だと思って振り返ったら浅尾さんが鬼みたいな顔をしているではないか。

あ、分かった。
浅尾さんがそんな顔してるから矢野さんは怖いって言ったんだな。

よし、俺に任せろ。


「浅尾さん!矢野さん怖がらせちゃ駄目!だよ?」

「なっ…!」

「分かった?分かったら返事は?」

「…は、はい…ごめんなさい…」

「「ぶっ」」


表情は引き攣っていたけど、俺の要求に応えて素直に謝った浅尾さんに満足してうんうんと頷いていたら、その様子を見ていた植田さんと岡本さんが堪え切れないように吹き出した。

そこで初めて岡本さんの存在を思い出した俺。
そう言えば今日、岡本さんとはあまり話していない気がする。

意識の向くままに「岡本さん」と呼び掛けると、俺の思考なんて何も知らない彼が驚いたような困ったような顔をして「…え、俺?」と訊き返してきた。


「うん。俺、岡本さんとお話したい」

「「なんで佑規(さん)!?」」


話し掛けていない二人から突っ込みを入れられたから外野がうるさいなぁ…と思っていたら、岡本さんが「…俺は、良いけど」と答えてくれたから何だか嬉しくなった。

ひょいっと矢野さんの膝から降りて元いた位置に戻る。
「紘夢くんおかえり」と言って浅尾さんが頭を撫でてきたけど俺は今岡本さんとお話したいから無視をした。

そんな俺に構わず浅尾さんが俺の頭を撫で続けるから、俺もそのまま放置することにする。


「岡本さんは、何歳なんですかぁ?」

「えっと、今年24」

「ええ!俺と三つしか違わないよ?どうやったらそんなにイケメンになれたの?」

「……ごめん、それは分からない」


困ったような顔を見せる彼をぱちぱちと瞬きしながらじっと見つめてしまう。

何を食べてどうやって過ごしたらイケメンになれるんだろう…?
俺も三年後はイケメンになれるのかな…?


「あれ?そう言えば浅尾さんはいくつ?」

「俺は23だよ。佑規さんの一個下」

「そうなんだ…。二人は?」

「俺は27だよー。和さんは29だからこの中で一番おじさんだね」

「修」

「あははーごめんなさーい」


成る程そう言うことか。
やっぱり、歳をとればとる程にイケメン度が上がっていってる気がする。


「俺はあと何年でイケメンになるのかな…」

「紘夢くんはそのままが良いよ」

「えーやだぁ。俺もイケメンになりたいー」

「紘夢は可愛いからいーの」

「可愛くないもんっ」

「「割とマジで可愛いよ」」


うるさいなぁ可愛いって何だよ!
可愛いなんか言われても嬉しくないんだからなっ!

俺はイケメンになりたいんだよと思いながら二人を睨んだけど、それもただ笑われただけで効果なんて何もなかった。

現在進行形でイケメンは余裕があって良いよなあと内心僻んでいたら、矢野さんの横にいる植田さんが「修、そろそろアレ」と俺を見ながらぽつりと漏らす。


「…マジでやるんすか?俺この状態の紘夢で既に満足してるんだけど…」

「ふうん。こんなチャンス滅多にないと思うけど」

「っ…それは、…そうかもだけど…」


何やら渋る様子を見せる矢野さんをぼんやりと眺めていたら植田さんに「紘夢くん。ちょっとこっち来て」と呼ばれた。
彼に逆らうと怖いと言うことだけは頭の隅に残っていたらしく、疑問を抱きつつも言う通りに彼の元に向かう。


「今から”良いこと”しようと思うんだけど、紘夢くんもやりたい?」

「良いこと…?何それ?」

「やるって言ったら教えてあげる」

「んー。やる!」

「はい決定」


考える間もなく答えた俺を見て植田さんがにやりと笑い、それから俺の身体をひょいっと抱き上げて矢野さんとの間にすとんと下ろした。
俺に向けられている浅尾さんと岡本さんの視線は少し強張っているように見える。

何なに。何が始まるの?

急に不安になって矢野さんの手をぎゅっと握ったら、矢野さんも困ったように笑っていた。


「修、準備」

「…はいはい」

「拓と佑規も手伝え。俺は脱がせる」


有無を言わさぬ勢いで植田さんに指示された三人はいそいそと部屋を片付け始めた。

机を端に寄せたり、ゴミを片付けたり。
その光景を訳も分からずに眺めていたら、急に植田さんが俺の服に手を伸ばしてきた。


「やっ…なに…?」

「紘夢くんも気持ち良くなりたいだろ?だったら服は脱がないとな」

「…気持ちいい、こと…?」


随分前から正常な判断など出来なくなっている俺の脳は本能的に”気持ち良い”と言うワードを良い意味で拾ったらしい。

植田さんの言葉に素直に頷くと、それからあれよあれよと言う間に着ていた服とインナーが脱がされ、ズボンまで取っ払われてしまった。


「思った以上にいけそうだな…綺麗な身体してるね」

「っやだ、恥ずかしい…っ」


妖しい光を宿している植田さんの目が怖くなって、自分の身体を隠すようにソファの上に蹲る。
いつの間に集まっていたのか知らないけど、気付いたら浅尾さん達も俺のあられもない姿を食い入るように見ていた。

お酒のせいで既に熱かった身体が更に体温を上げてしまう。


「紘夢くん」

「ひゃあっ」


耳元で名前を囁かれただけなのに、自分のものとは思えないような変な声が口から飛び出した。
その反応を見てくすくすと笑われ余計にカッと身体が熱くなる。

これ以上熱くなったら溶けてしまいそうだと思った。

皆の視線が恥ずかしくて、怖くて。

助けて欲しくて浅尾さんに手を伸ばしたら、何かに耐えるような表情をした浅尾さんが俺の元へ近寄ってきた。


「紘夢くん…」

「っ…浅尾さ…」

「紘夢くん、好きだよ」


突然の告白の後。

ごめんね…と謝った浅尾さんが、それから何の予告もなく俺の唇を奪った。




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