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名前

歌い終わった後の彼の笑顔を思い出すと、喉と胸の真ん中辺りがふわふわした。


多分その時にはもう彼のことが好きになっていたんだと思う。


実は榊君に嘘をつきました。


佑を名前で呼ぶ理由。


寮生やクラスメートの名前をなかなか覚えられなかった私は、はるかさんが彼らに呼び掛けるのを聞いて少しずつ覚えていった。


だから、はるかさんが呼んでいた名前が、私が覚えた呼び方。


それを榊君に言わなかったのは時系列の問題。


あの頃は、龍海君と水瀬君はまだ苗字で呼んでいた。


佑と零は名前で呼んでいた。


あと、榊君のこともはるかさんは『晃』と呼んでいた。


だから、彼の名前はもう知っていたから、はるかさんの呼び方を覚える必要がなかったのだ。


そんなこと気付かれることはないとは思うけど、気付かれると困る。


そんなに前から好きだったのかと思われるのはちょっと恥ずかしい。


だから彼に嘘をついてしまった。


でも名前のことで榊君を悲しませていたなんて思わなかった。


転校してきて一番に呼んだ男の人の名前だったから、それからずっと心の中で呼んでた名前だったから、なかなか上書きができなくて…


本当に不器用で、ごめんなさい。


晃君・晃君・晃君…


自分の中の刷り込まれてしまった情報を上書きするように口の中で唱えてみる。



「晃君」



最後に声に出して呼んでみると、路上ライブでみた彼の笑顔を思い出した。


やっぱり胸の中がふわふわして、私も笑っていた。



おしまい

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あきゅろす。
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