愛染(S)




「う゛お゛ぉぉい!!!」


王のいない古城は、どこか寂しげだった。

何かが泣くような耳鳴りが聞こえる。昼下がりの森閑とした空間に、埃が舞った。スクアーロは間隔短く靴音を派手に鳴らしながら、まったく人の気の無い廊下を歩いた。


「ひたき!どこだぁ!!」


彼の目的は同盟ファミリーに所属する幼なじみを見つけること。
スクアーロが任務を終えてアジトへ戻る前には来ると約束していたため、彼女とは直前に任務完了の連絡をしていたから、少なくともこのアジト内にいることは分かっている。

彼ならではのサイレンのような大声を響かせながら、既にアジトにいるはずの彼女を探してしばらく経つが、未だ彼女は見つからないままだった。


かつかつかつかつ、せわしない足音。
短気な彼の器はもう危ういところまで満ちていた。

返り血の付いた髪を洗いたいのに、彼女を見つけないことには心の踏ん切りが付かない。早く見つけてしまわなくてはと思えば思うほど、苛つきにも似たその焦燥は募った。


「好い加減―――!」


スクアーロはとうとう、仲間から喧しいと罵られている声を更に張り上げた。が、舌を噛み最後まで言い切らずに終わった。
思いの外強く噛んでしまったせいで、口の中には鉄の味が蔓延している。

(何しやがる!)と涙目ながらに凄めば、スクアーロの目はたちまちまん丸に開かれた。さらうように引き込まれた真っ暗な密室で彼が睨んだのは、散々探した、一人の女。


「おま…どんだけ俺が探し回ったと思って――
「黙ってスペルビ。」


掠れるほど声を潜めながら、ひたきはスクアーロの口を手で塞ぐ。手のひらを擽るように理由を問うと、彼女は至極シリアスな顔をして(今かくれんぼしてるの)、と言った。

スクアーロの間抜け顔に向かってひたきは少し恥ずかしそうに、ベルフェゴールがマーモンを出汁にするものだから断れなかったのだと説明した。
ガキ相手にマジにかくれんぼなんかするなよと吐き捨てる、不機嫌なしかめっ面を覗く顔があり、スクアーロは血の滲む痛みに耐えながらニヤリと笑った。

握り潰すようにひたきの両肩を強い力で掴み、唇を食らった。スクアーロは獰猛に何度となくかじりついてくる。
ときどき舌は歯列を越えてひたきを追い捕らえて絡んだ。そして、喉の奥からは、熱い吐息が絶え絶えに漏れ出していた。


「てめえのせいで舌を噛んだ」
「やたら長かったのはそのせい?」

「よく分かっただろぉ、俺の血の味が」


スクアーロはまた口の端をあげて見せる。「今夜久しぶりにやるかぁ?」なんて、なまめかしい銀をきらきらさせながらの誘惑は、妖しく艶やかな微笑付きだ。

「いいよ。」ひたきはさきほどのキスの嵐で火照った頬で、フと笑った。「私が逃げ切るのに手を貸してくれるならね。」


「…お前が声を出さなきゃ、今ここでやっちまってもいいよなぁ?」


「え?
そんなことしたら一生許さないけど」

「だよな」


スクアーロは一瞬片方の眉をピクリとさせながらも俄然乗り気だ。まあもう一仕事した後でもいいかとクツクツ笑い、ひたきの耳元に低く囁いた。






愛染

(俺の欲の力をなめんなよ。)



あきゅろす。
無料HPエムペ!