A color(S-10)




「また誰か殺してきたんだろ」

と、誰かが呟く。

私が何も反応をしないのをいいことに、周りはあれやこれや好き勝手に妄想してくれる。
あることないこと(ほとんどないことだが、)種類は多彩で、逆にその想像力に感心してしまうほどだ。

すべていい誤解だが、結果皆私を恐れて近寄らないのだから結果オーライだ。構ってやる必要もない。

「…………」

じろりと見やると奴らは慌てて口を塞いだが、今は特にぶっ放すも起きなかったから、銃を眠らせたままに通り過ぎた。
後ろからは安堵のため息が多々聞こえてきた。


唐突だが、私の世界には色というものがなかった。

もちろん視神経は正常なので視覚的な色は存在したが、怒りと言えば何色・喜びと言えば何色と言うような、どれも私の心を表すに至る代物ではなかった。


「どうしたんだぁ、ひたき」


――嗚呼、感情を表現する色が無いというのは少し嘘があるかもしれない。


「…スーちゃん。」

「随分とつまんなそうな顔してるぜぇ?」
「……分かるの?」


スペルビはクスと笑って、抱きついてきた私を受け入れてくれた。彼は色が無くとも私の心を見つけてくれる。だいすきだ。


「お前のことはなーんでも分かるぞぉ。」

「下手したらお前自身より、な」
「ふふ。違いない!」


他人の呟きも血も涙にも私からすれば色は無いも同然だが、スペルビが私にくれる温度にはなにかほっとするものを感じていた。

これが色だったら――何だろう。スペルビ・スクアーロという名前の色があれば手っ取り早いのだが。


「う゛お゛ぉい、
いつまでくっついてる気だぁ」


そろそろ動きたいんだが、とスペルビが申しだしてくる。彼にはすまないが、もう少しこのままでいさせてほしい。


「スペルビ、大好きよ」

「なっ…
……それは知らなかった。」




強い鼓動の聞こえる胸板に擦りつくと、なんだか笑えてきた。



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