部屋には沈黙が住まう。
無人なわけではない。
かと言って無音なわけでもない。
ただ、ひたすらに無言なのだ。
「マーモンまだかな」
やっとひたきが声を発する。
だがそれも小さく短い音の連なりで、一瞬震えた部屋の空気もまた鎮まった。
埃の積もる音でも聞いている気分だ。
この部屋の主の小さな体には随分大きく思えるベッドに腰を埋める。
「ねえ、ベルフェゴール?」
「ベルでいいよ」
「……そう、」
目の前を見てまたうなだれた。
さっきからずっとこうだ。
寂しい口を紛らわせたいのに、言葉が続いてくれないのだ。
饒舌な互いらしからぬことだった。
「…ベルフェゴール」
「……なに」
「自分の部屋で磨いたら」
「嫌だね」
「…さみしがり屋?」
「そうかも」
「意外」
「王子は複雑なの」
ぽつり、ぽつりと言葉が続く。
まだまだ耳鳴りには勝てないが、それでも口の寂しさと気は紛れた。
ひたきは組んだ脚の上に頬杖をついたまま少年を見る。
ベルフェゴールはソファに座り、背を丸めながら几帳面に冠を磨く。それから目を離そうとしない。
「…ひたきこそ。」
「ん?」
「スクアーロのとこ行かないの」
「…いいよ」
「しし、俺と一緒にいたいんだ?」
「王子はさみしがりなんでしょ」
「そうそう。分かってんじゃん。」
「うさぎぶってどうすんだか」
三日月のように覗く歯列は刹那的で、彼はすっかり手入れに夢中のようだった。
冠のない頭は心なしか物足りない。
「寂しいと死んじゃううさぎチャンはひたきの方だろ」
「違うし」
「だってさ、
話しかけてんのひたきじゃん」
「じゃあ黙ろう」
「なんで黙るんだよ」
金糸の髪が微かに揺れている。
丸い頭がどこか可愛らしく感じられた。
ぎい と微かに鳴くベッド。
「ほら、ベルフェゴールがうさぎだ」
深いクロムグリーンの爪が金色に埋まる。
途端にベルフェゴールは首をすくめ、ようやく銀色の冠から目を離した。
「違うし」
「だって王子だもんね」
「……そうだよ」
(何て愛らしい王子さまでしょうね。)
(あー、俺らしくねえ)
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