「もう!」
彼女は憤怒する。
一時出稼ぎでアメリカの世話になったのは確かだが、それがネックとなっていた。
「おーい、どこに行ったんだいハンナ…」
「ちょっと待ってよ!」
退屈なとき。分からないことがあるとき。面倒事ができたとき。
彼女はいとも簡単に呼び出される。
次は行くもんかと意気込むものの、結局アメリカ宅に駆けつけてしまう自分に、憤りを感じるのだ。
「風邪酷いって言ったのに
からかいに来るから移るんだよ、」
今回は彼を拒みきれなかったという点で一部責任があるため、面倒を見に訪れていた。
高熱によって弱りきったアメリカはいつもの脳天気な声を沈ませ、まるで別人のような静けさである。
「だって酔ってたんだぞ、仕方ないじゃないか」
「そうそう、フランスさんがワインを大量に持ち込んでくれてね」
「君が全部俺に押し付けて、」
咳混じりのアメリカの返答に、彼女の中の責任感はじわりじわりと膨らんでいく。
拒みきれなかっただけではなかったか、と頭の隅に苦笑いがこみ上げた。
「でもね、酔った勢いとは言えお見舞いのアイスを素肌に塗りたくられるとは思わなかったわ」
白濁色の液体が、熱を帯びて赤く熟れた肌を筋となって流れ星のように滑る。
落ちる手前男の舌が女の柔らかな丘に触れ、薄く張った汗と共に甘い滴を舐めとると、
女は恥辱から拒絶し身悶えし、体を震わせ男の支配から逃れようと病人の身ながら抵抗した。
「あれは結果オーライじゃないか。
運動して汗かいて治りも早かったろ?」
「ばか!!変態!!」
どこぞの、性的な交わりを描いた漫画のようなシーンが頭をよぎる。
それまで膨らみつつあった責任感は途端に急激な消滅を遂げ、次いでは沸々と屈辱による怒りが彼女の体に広がっていった。
「あんたなんか、額にハンバーガー載せて独りで寝てればいいのよ!」
ぎゅう、とアメリカの額にハンバーガーが押し付けられる。
ポカンとハンナを見ていたアメリカの瞼に、はみ出したケチャップが垂れた。
「えっ、もう帰っちゃうのかいハンナ?」
以前こうすれば元気が出ると力説し、先日彼女に同じことをしていた仕返しだった。
「超弩級の馬鹿がひいた風邪だもん、貰ったらどれだけ寝込むか恐ろしいわ。」
元気が無いながらも額のハンバーガーを食べ出すアメリカを見やる。
幼少の頃の、自国へ帰る兄を見送るあの何とも言えず寂しげな目でハンナを引き留めようとしていた。
「今帰ったら輸出入止めるぞ」
「この卑怯者め……」
「ハンナが俺なしじゃやっていけないこと、知ってるんだからな」
たとえ幼少と同じ目をしていても違うのは、彼が持つ力とその使い方だった。
ぐっと言葉を詰まらせ側に戻るハンナの重い足取りと、悔しげなその表情に、アメリカは、にやりといやらしく笑う。
「…アメリカこそ、私がいなきゃ素直に甘える相手いないくせに……」
眼鏡の奥の光が、強大な強みを握る者の優越感を表していた。
ハンナはけして裕福な国ではない。あらがうことはできなかった。
「アイスは無いからね」
「いいよ。
違うもので我慢するんだぞ」
「剥くな触るな塗るな!!!」
「ケチャップー」
意のままに、従わせるだけ
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