サイダーの憂鬱




勢いで日本や仲間を連れてバーに来たものの、生憎俺は未成年だった。
しかも、仲間内でたった一人だけ。

アルコールをとってどんどん陽気になっていく空気に拗ねながら、群から離れた場所でサイダーの泡をつついていた。


「あら、アメリカくんではありませんか?」


それもこれまでだった。

ちぇ、なんて言って尖らせていた唇を慌てて元に戻す。
首を90度右に回してみれば、美しい黒髪のあの子が見えた。


「やあハンナ奇遇だね、君も飲みに?」

「いいえ、私は見張りに」
「見張り?」


ほら、あれです。と彼女が指し示す先には、いつものようにフランスと口げんかをするイギリスがいた。

イギリスの片手には、既に空っぽになった酒瓶がひとつ。


「イギリスさんが脱ぎ出す前に、回収するんです」


くすくすと笑うハンナの横顔が、何だか面白くない。

また唇が尖りだしたから、ふぅんと返事をした後に、ごまかしてサイダーを啜った。



すっかり奥さんみたいじゃないか、ハンナ。


誰かに言われる度に、慌てて「違いますよ」なんて言うくせに。


君はいつだってそうだ。

君はいつも嬉しそうにイギリスの世話を焼く。
それはもう、見てて妬けるぐらいに。


サイダーが無くなったので、おかわりと、彼女の為のオレンジジュースを頼んだ。

前に酒は飲まないと聞いたから勝手に選んだけど、ハンナは文句も言わずにジュースに口をつけた。


「君は何故飲まないんだい?」

「何故か、ですか」
「もう飲酒はいいんだろ」


ハンナは言葉の続きを考え出した。

ハンナは確か、イギリスと暮らして長いはずだ。彼の意地の悪さが移っているとしたら、彼女は今俺を弄る台詞を考えているのだろう。


「弱いからです」


「アメリカくんに甘えて迷惑をかけてしまうかもしれませんからね」

「な……それぐらい平気さ、ヒーローだから」


やはり意地悪い。

単に人をからかうのが好きなのか、俺の気持ちに感づいていてなのか。どちらにせよ。

すっかり困った俺を置き去りに、ハンナは冗談だと言い放った。


「私が潰れてしまっては、あの酒乱を止める者がいなくなるからですよ。」


からかってごめんなさいね、そう言ってハンナは急に席を立った。

向こうでは、顔を真っ赤にしたイギリスが、機嫌良さそうにシャツに手をかけている。

――なるほど、タイムリミットか。


「ハンナ、次はいつ会える?」


マスターにイギリスの酒代とオレンジジュースは彼のツケにしておいてほしいと告げ、店を出て行く後ろ姿に叫んだ。

寄り添って彼の背を押しながら、ハンナはこっちに振り向く。


「連絡くだされば、いつでも!」
「そうか。また連絡するよ」

「ありがとうございます、待ってますからね」

ハンナは首をかくんと下げ、イギリスを連れ足早に店を出て行った。


すぐに二人の背中も見えなくなり、俺はまた同じ席に戻って体の力を抜いた。

磨かれたテーブルの上に突っ伏すと、濃密な溜め息。


マスターが、酒を勧めてきた。







ぐちゃぐちゃに酔って、あなたを忘れてしまいたい




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!