アメリカの、断末魔にも似た大絶叫がさっきから何度もあがっている。
クッションを原型の分からないほど抱き締めているアメリカの隣で、私は冷めた目をテレビに向ける。
「こ、怖すぎるよこれェェェアアア!!」
語尾が叫び声と混じって伸びる。
そんなに怖いものか、この心霊写真。そう思うのは私だけではないはずだ。
私だって目に見えない彼らが怖いと思うこともある。
「だからね、見なきゃいいと思うのよ」
大体こんな透けても霞んでもいない、実に生身の人間らしい方が幽霊なわけないじゃないか。
いつもそう説明しているのだが、(今だってしつこいほどした、)
言わば錯乱状態に陥っているアメリカは面白いぐらいに理解しない。
「それは駄目だ、俺はヒーローだからね!」
ヒーローだから何だと思う私は冷たいだろうか?
最近は精神的に情けないヒーローだっているわけだし別にホラーが苦手なら苦手でいいと思うのだ。
ところで何故私がこんなにも恋人に対して厳しいのかについて。
「アルフレッド、もうそろそろ」
「え?もうそんな時間なのかい!?」
「うん、もう出なきゃ」
すぐ後に会議があるのでホラー映画を観るのには付き合えないと断ったにも関わらず、
大丈夫大丈夫!と何だかんだで丸め込まれて結局付き合わされていたからだった。
実際大丈夫なんかじゃない。
会議は日本で行われるから飛行機の時間は絶対だ。
「頼みづらいなら私から一緒に観てくれるようイギリス兄さんに連絡しておくから、ね?」
だから行かせて、と立ち上がろうとするが、アメリカが全力で腰に抱き付いて、
私をソファに押さえつけるものだからそれができずにいた。
アメリカは車を引きずって走っても息を切らさないほどの馬鹿力だ、私なんかが対抗できるわけがない。
下手に動けば、私もさっきのクッションのように、あらぬ形になってしまいそうだった。
「……ハロー、日本さん?」
何とかアメリカの腕から逃れていた右手で携帯を使い日本さんへ電話をする。
……仕方ない。
「すみません、今回は欠席します…急に高熱……はい、」
「さっすがハンナ!!」
「はいはい。今日だけなんだからね?」
それは彼の確信に満ちた策略だった
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