ヴェストが言うから、私はギルベルトを連れておつかいで街へ出た。
それにしてもこの男は何故こんなにも頼りなげで寂しそうなのか。いつか見た、片手の旗で空を切るあの凛々しい背中はどこへ行ったのだろう。
「ギル、いつもヴルスト買ってるお店はそっちじゃないよ!」
今のギルベルトは言えば、萎んだ風船に似ている。もう飛べもしないし、叩いても跳ねることはない。
あとは捨てられるだけ、みたいな。
プロイセンという国がなくなった今も、ギルベルトは生きて私の側にいる。初めは私もヴェストも喜んだが、今の彼では正直邪魔に思ってしまうこともある。戦うこと以外はまるで何も知らず、いつも何かしらやらかしてくれるからだ。
「ヴェストには内緒でさ、なんかおやつ買っちゃう?」
そっとギルベルトの手を取って握る。
ギルベルトは僅かにびくついたが、すぐにぎゅっと握り返してくれた。
「誰が金払うんだよ」
「もちろん、ギルでしょ」
「何でだよ!」
ギルベルトの赤い目が手と手の結び目を映した。
もぞもぞと彼の手が動いて、少し繋ぎ方が変わる。互いの指が絡み合って、何だか照れくさい。
「ハンナ、お前はヴェストが好きか?」
パン屋を出たところで、突然ギルベルトはそう訊いてきた。
声色は静か。
いつもこの声が高笑いをしているのかと少し驚いた。
「好き、だよ」
「そうか、そうだよなぁ」
「奴はいい男だ」
手のひらに、じわりと汗をかく。汗で滑りの悪くなった手の結合部分。
ギルベルトの方から、私の手を握る手に力が加わる。
「ばぁか」
「はあ?!」
バッと勢いよく私の顔を見たギルベルトの顔は間が抜けている。
こみ上げる笑いをごまかして、銀色の眩しい頭を軽く叩く。
「馬鹿だよ、ギルベルトは」
「…その馬鹿者とやらにも分かるように言えよ」
「簡単に言うなあ」
私は一息ついて、買い物袋を持った手のひらを空けて、ギルのもう片方の手を掴む。
向き合ってまっすぐ赤い目を見つめる。その目は、僅かに私の顔から視線を外していたが。
「私が男として好きなのは、ギルベルトなの」
言い切るか言い切らないかの間に、視界が塞がった。
「そういうことは早く言えよ、馬鹿」
照れて小さくなったあなたの声が愛しくて
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