2010VD




俺、スペインには好きな人がいた。彼女は俺んち近所に住んでいて、昔一緒に戦ったことがあった。今はフランスやプロイセン達と共に遊ぶ4人の仲間の一人でもある。


「……で、キリッとして手ぇ握る。からの『好きや、ハンナ』……これや!」

「なあベルギー、何でお前がそない熱うなってんねん?」

「そういうスペインは他人ごとやんなー。そういうのあかんと思うで、ハンナはぐいぐい引っ張ったらなー」


彼女のことになると、俺は弱気になった。そこにベルギーが目を付けて、お節介を焼いている。というのが今のこの状況の説明だ。


「はあ。そうなるとかなり無理矢理やけど、俺捕まらん?平気?」

「平気やって!『俺おととい誕生日やってん、……ええやろ?』とか言うとけば」

「それあかんくない?なんか犯罪臭漂ってきとるで」

「心配しなくても大丈夫やって、ウチを信じや。それにハンナは元々………」

「え?今何て?」

「あっ、ううん!何でもあらへんよ!」

「うそつけ、ハンナがなんやねん!気になるやんか!」

「おにいちゃーん!一緒帰ろー!」

「ちょっベルギー?」

「ほなまた明日、うまくやるんやでスペインー」


そのあとベルギーと入れ替えで入ってきたハンナは、何だか照れくさそうに赤い頬を掻いていた。俺も釣られて照れてくる。放課後の教室は俺とハンナの二人きりだ。そりゃ、照れもするか。


「何か久しぶりやんな、こうして二人になるのは」

「スペイン徹底的に避けるんやもん」

「え?そうか?あ、ハンナちょお動かんとってな」

「何なん?……んー」

「絵の具。ほっぺたに付いとったで?」

「ありがとう。ふふっ、いつまで経ってもスペインは世話焼きやな」

「ははっ、俺は親分やからなあ」


やばい。この先の話題を考えてみても、どうにも俺の欲しい展開に持って行けそうにない。美術部は楽しいか?なんて、他に会話のネタが無い親やあるまいし。


「なあ、スペイン?日本んちはこっちとちゃうことするって、知っとる?」

「何の話や?」

「バレンタイン。日本んちではな、女の子が男の子にチョコあげるんやて」

「………くれるん?俺に」

「そのために作ってきたんや。貰ってくれへんと逆に困るで、格好悪いし」

「お、おおきに。大事にするわ」

「あほ。大事にするより早よ食うて。腐ってしまうやんか」

「あー、はは。せやな」


本当に調子が出ない。フランスとプロイセン、もしくはベルギーとオランダ、せめてロマーノだけでもいれば、こんなに緊張したりしないのに。


「……私のこと、苦手?スペイン」

「はっ?何を言うねん、そんな突拍子もない」

「だって、他の誰かおらんと私といてくれへんやん」

「それはただ、緊張するからで」

「どうして緊張するん?私ら、そんな遠慮せなあかん関係やったん?」

「ちゃう……これは、国としてやない。俺個人の、問題や」


ここを逃しては、もうチャンスは無いと思った。突然悲しげな表情をしたハンナの手を、しっかり両手で包み込む。驚いたハンナの体が跳ねる。それでも離さず、俺はまっすぐハンナの目を見た。


「俺、ハンナが好きなんや」

「……ありえへん」

「何がありえへんねん!お前、俺が嫌いか!」

「嫌ってへんわ!寧ろ同じや!」

「そ、それって……なあ。俺、喜んでええのん?」

「……好きにしたら」


ふいっと目を逸らしたハンナもまた愛しくて、ぎゅっと抱きしめた。昔もよくこうして抱きしめていたが、今のは全然違う。胸の奥から様々な感情が噴き出してきて抑えられない。ひたすら強く強く温もりを求めてしまう。


「フランスとプロイセンには内緒やんな?」

「スペインが言いたいんやったら、バラしたらええよ」

「俺、めっちゃ自慢すんで?俺のやってアピールかましてまうで?」

「二人ともそれで離れてくような奴ちゃうよ」

「でもプロイセンうざいで多分」

「フランスもうざい。多分プロイセンと違ってワザと」


帰り道は二人、手をつないだ。昔は同じくらいだと思ったが、今握るハンナの手はだいぶ小さくて、でも、温もりは変わらず優しかった。







この温もりは永久に



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