俺、スペインには好きな人がいた。彼女は俺んち近所に住んでいて、昔一緒に戦ったことがあった。今はフランスやプロイセン達と共に遊ぶ4人の仲間の一人でもある。
「……で、キリッとして手ぇ握る。からの『好きや、ハンナ』……これや!」
「なあベルギー、何でお前がそない熱うなってんねん?」
「そういうスペインは他人ごとやんなー。そういうのあかんと思うで、ハンナはぐいぐい引っ張ったらなー」
彼女のことになると、俺は弱気になった。そこにベルギーが目を付けて、お節介を焼いている。というのが今のこの状況の説明だ。
「はあ。そうなるとかなり無理矢理やけど、俺捕まらん?平気?」
「平気やって!『俺おととい誕生日やってん、……ええやろ?』とか言うとけば」
「それあかんくない?なんか犯罪臭漂ってきとるで」
「心配しなくても大丈夫やって、ウチを信じや。それにハンナは元々………」
「え?今何て?」
「あっ、ううん!何でもあらへんよ!」
「うそつけ、ハンナがなんやねん!気になるやんか!」
「おにいちゃーん!一緒帰ろー!」
「ちょっベルギー?」
「ほなまた明日、うまくやるんやでスペインー」
そのあとベルギーと入れ替えで入ってきたハンナは、何だか照れくさそうに赤い頬を掻いていた。俺も釣られて照れてくる。放課後の教室は俺とハンナの二人きりだ。そりゃ、照れもするか。
「何か久しぶりやんな、こうして二人になるのは」
「スペイン徹底的に避けるんやもん」
「え?そうか?あ、ハンナちょお動かんとってな」
「何なん?……んー」
「絵の具。ほっぺたに付いとったで?」
「ありがとう。ふふっ、いつまで経ってもスペインは世話焼きやな」
「ははっ、俺は親分やからなあ」
やばい。この先の話題を考えてみても、どうにも俺の欲しい展開に持って行けそうにない。美術部は楽しいか?なんて、他に会話のネタが無い親やあるまいし。
「なあ、スペイン?日本んちはこっちとちゃうことするって、知っとる?」
「何の話や?」
「バレンタイン。日本んちではな、女の子が男の子にチョコあげるんやて」
「………くれるん?俺に」
「そのために作ってきたんや。貰ってくれへんと逆に困るで、格好悪いし」
「お、おおきに。大事にするわ」
「あほ。大事にするより早よ食うて。腐ってしまうやんか」
「あー、はは。せやな」
本当に調子が出ない。フランスとプロイセン、もしくはベルギーとオランダ、せめてロマーノだけでもいれば、こんなに緊張したりしないのに。
「……私のこと、苦手?スペイン」
「はっ?何を言うねん、そんな突拍子もない」
「だって、他の誰かおらんと私といてくれへんやん」
「それはただ、緊張するからで」
「どうして緊張するん?私ら、そんな遠慮せなあかん関係やったん?」
「ちゃう……これは、国としてやない。俺個人の、問題や」
ここを逃しては、もうチャンスは無いと思った。突然悲しげな表情をしたハンナの手を、しっかり両手で包み込む。驚いたハンナの体が跳ねる。それでも離さず、俺はまっすぐハンナの目を見た。
「俺、ハンナが好きなんや」
「……ありえへん」
「何がありえへんねん!お前、俺が嫌いか!」
「嫌ってへんわ!寧ろ同じや!」
「そ、それって……なあ。俺、喜んでええのん?」
「……好きにしたら」
ふいっと目を逸らしたハンナもまた愛しくて、ぎゅっと抱きしめた。昔もよくこうして抱きしめていたが、今のは全然違う。胸の奥から様々な感情が噴き出してきて抑えられない。ひたすら強く強く温もりを求めてしまう。
「フランスとプロイセンには内緒やんな?」
「スペインが言いたいんやったら、バラしたらええよ」
「俺、めっちゃ自慢すんで?俺のやってアピールかましてまうで?」
「二人ともそれで離れてくような奴ちゃうよ」
「でもプロイセンうざいで多分」
「フランスもうざい。多分プロイセンと違ってワザと」
帰り道は二人、手をつないだ。昔は同じくらいだと思ったが、今握るハンナの手はだいぶ小さくて、でも、温もりは変わらず優しかった。
この温もりは永久に
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