冷たい空気に体を震わせながら、階段を降りていく。小さな窓のついた重々しい扉が見えてくると、同時に女の子のむせび泣く音が聞こえてきた。
扉には過剰なほど鍵が掛けられていた。僕はそのひとつひとつを外して、部屋の中に入る。
何もない部屋。窓は扉についている小さなもの以外に無く、閉ざされた空間だ。女の子はそんな場所で一人床に座り込んでいた。
「やあ。僕のことわかる?」
僕の姿を見た女の子は、途端に震えだした。手足を縛る鉄の枷から振動が伝わって、鎖が鳴っている。(寒いのかな。)
もしかしたら、声の出し方を忘れてしまっているのかもしれない。女の子は僕が話しかけてもまったくお返事してくれない。少しさみしいな。
「はい、ごはん。ちゃんと食べて。しんじゃだめだよ」
女の子の口にスプーンを運んで食べさせてあげるんだけど、女の子はうまく食べられなくて、こぼしてしまう。僕は手袋を外して口の端が汚れたのを拭い、両手で女の子の頬を包み込んで虚ろな紺碧の瞳を覗き込んだ。
「ふふっ!君はお人形さんみたいだね」
顔を近づけて、頬と頬をすりあわせる。彼女の肌はぞくりとするほど滑らかで、ひんやりしている。
「ワ―――ツ……ルノ…」
「ん?なあに?」
「ワタシ イツ シネルノ」
僕は彼女が可哀想だなんて思わないし、思ったことは一度もない。きっと誰も彼女を哀れんだりしない。
だって。
全部、この子が悪いんだもん。
その体、抱え込んで離さない。心はどこかへ逝ってしまったけど、魂までは逃がさない。
僕をひとりにしようとするから。
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