Eifersucht




いつからだろう、こんなことを考えるようになったのは。


国としてのあいつが欲しいんじゃない。

一人の女性である、あいつが欲しい。


このところそればかり考えていて、会議中だろうが構わず上の空になってしまう有り様だ。いい加減、自分で自分に呆れている。


人なつこく笑いかけてくるハンナ。以前から可愛いな、とは思っていた。

俺は戦うことがすべてのような奴だ、あいつを幸せにはしてやれない。争いとは無縁のあいつと俺は、交わってはいけない存在だ。
だから、可愛いと感じた時点で俺は思考を断つ。欲しがってはいけないのだと、いつも自分を殺していた。


それなのに、なぜだ。


(わたし、プーちゃんがだいすき)

(ほ……ほんと、か……?)


我慢ができなくなった。


小さな唇と唇が一瞬だけ重なって、(ガリちゃんには内緒ね)とくすぐったそうに笑ったあいつが持ち掛けた約束をのんで。

赤い顔を隠すように抱きついてきたあいつをこの腕で包んだときに、俺の胸の中に色々なものが沸き上がってきたのを覚えている。

ああ、あのときかもしれない。

ぐつぐつと思いが熱く熱くなって、鉄のようだった我慢をも溶かしてしまったんだ。


もしかしたら俺は、あいつが俺を好きでいるよりも強く、あいつが好きなのかもしれない。そう思いだした途端、急にあいつの身辺が気になった。

まだ我慢ができていた頃なら、俺に会いに来て、声を聞かせてくれたり、笑いかけたりくれるだけで十分満たされていたのに。

どこかに閉じ込めて、俺だけのものにしたいと思うようになってしまった。


「ガリちゃん、おやつの時間だよ!」

「おう、今行く!」


物陰に隠れてあいつとハンガリーの声を聞きながら、あいつを連れ去ることやその先を想像し始める自分にぞっとした。

あいつの幸せを願い、かつて己の思いを殺すまでしていた俺は、今、何を考えていた?


「ん?その包みは何だハンナ?」


気付けば俺は走り出していた。

この胸に滾る嫉妬が漏れだして、ハンガリーに気取られるかもしれない・と思った。


「プーちゃんにあげるの。前、おいしいって言ってくれたから……」

「……ふうん……」

「今お家にいるかな?」

「知らねー」

「……プーちゃんのことになると冷たいよね、ガリちゃん」

「ったりめぇだ。あいつを好くお前の気が知れねえよ、ったく」

「ふふふ……」



「それじゃ留守番よろしくね、ガリちゃん。いってきます」

「……俺も行く」


俺がさっきまで立っていた場所には、花が一本だけ落ちていた。


「だめだめ、ガリちゃんはプーちゃんと喧嘩したがるでしょ?」

「それは…その……」

「仲良くする約束なんかできないよね、1人で行くよ?」

「………さっさと渡して帰ってこいよ」


綺麗だったから折って持ってきたのだが、ハンガリーもいると分かってどうしたら良いものか分からず、持ち帰るのもなんだったので足下に置いてきてしまったのだ。




「――あら、黄色い薔薇の花… きれい………」













嫉妬の花
薔薇(黄)..「嫉妬」



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