アメリカさんの寝室を掃除し終えた昼下がり。冷たい水で一息ついていると、楽しそうに笑ったアメリカさんが目の前に現れた。
「ハンナ、調子はどうだい?」
「とてもいいですよ。」
「俺もさ。ヒーローだからね!」
聞いてもいないのに、アメリカさんはとても元気よく体調の良さを私に教えてくれた。
使用人歴はそれなりに長い。いつも明るいアメリカさんの僅かな変化だってわかるつもりだ。
「君は頑張っているからね、俺のドーナツを一つあげるよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ほら、君も大好きなドーナツだぞ!」
今日は本当に機嫌がいい。
いつも抱えている大量のドーナツを一つ分けてくれるなんて。
……何かある。
「ところでハンナ、君の部屋は綺麗かい?」
「それなりに」
「リトアニアさん人形は?」
「…枕元に置いてありますけど」
リトアニアさん人形とは、憧れのリトアニアさんを思って縫ったものである。
まさかアメリカさんにその存在を知られているとは思ってなかったけど、今はそこを問いただす時ではない。
「それ、早くしまっておいた方が良いと思うんだぞー」
アメリカさんが、によによしている。
突然玄関のベルが鳴り、私はアメリカさんにによによの意味を問う機会を失った。
小走りで玄関へ向かう私の後ろを、マイペースにアメリカさんがついて来る。
「やあ、待ってたぞ」
「今日からお世話になります」
リ、リトアニアさ………!!
「あ、あなたもこの家で出稼ぎを?」
「ええ…」
「ああリトアニア、その子はハンナだぞ」
アメリカさんの紹介に合わせて軽く頭を下げる。リトアニアさんも私に名前を教えてくれた。
…実はもう、知ってるんだけど。
「ハンナ、リトアニアを案内してやってくれ」
「はい。…リトアニアさん、」
「すいません」
ああもう、こういうことか!道理でアメリカさんがによによ可笑しそうだったわけだ。
よくも黙ってたな、後でハンバーガーもアイスもどこかに隠してやる…!
「ハンナさん?」
「え、あ!」
「ここが…台所です………」
考えごとをしながら歩いていたら、あっちへこっちへふらふらとした歩き方になっていた。
リトアニアさんは部屋をあちこち見ながら色々私に質問をしてくるけど、正直巧く答えられたかはわからない。
私の無意識がまともであることを祈るばかりの現状だ。
「大丈夫ですか?顔が真っ赤……」
「えっあうわっ平熱です!」
歩き方に目を付けたリトアニアさんは、前に回ってぐいと私の顔をのぞき込んだ。
今までは遠くから見てるだけだったから、今の距離がとても近く感じる。
(は、恥ずかしい……!)
「嘘は駄目ですよ、あなたの部屋はどこですか?」
リトアニアさんはひょいと私を抱き上げて、まだ案内していないところを歩き出した。
途中であまりに不自然なすれ違い方をしたアメリカさんはリトアニアさんに私の部屋の位置を告げると、
わざとらしく口に手を当て少年のようにDDDD.と笑いながらシェイクを飲みに行ってしまった。
「ハンナさん、もう少しの辛抱ですよ!」
今にも私の心臓は焼けちぎれてしまいそうです
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