「そちらハンナさんですか?」
(そうですよー)
「こちらは俺やで」
酔ってる?そう訊ねてくる顔が目に浮かぶ。別に酔ってなんかいないけど、ハンナの声にほっと安心しているのは事実だった。
「今何観とるん?」
(さあ?)
「さあて。」
(…………)
「…ハンナ?」
急に黙り込んだ向こう。
ハンナが喋らない間、テレビの音がやたらとクリアに聞こえていた。
(スペイン、会いたいよ)
彼女の、いかにも甘え慣れていない不器用な口調にきゅんとする。まともな返事の仕方も忘れていた。
(無理かな)
「…ちょっとだけ待っとって。」
元々彼女の家に向かっていた俺は、一気に歩く速度を上げた。
「早いとこお前んち行って、いやっちゅうほどキスしたる!」
早く。
早くハンナの家に着け!
もうハンナが、独りの寂しさを大音量のテレビで紛らわせるなんてことのないように。
俺も会いたかったと、キスして、抱き締めて、全身で彼女に伝えるんだ。今ここで口に出すなんてことはしない。
いくら動物じみていようが、俺は、ハンナに対する俺の思いを、うまく言葉になんてできないことを知っている。
お前のことは、
一生親分が守ったる!
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