「ほう。イタリアは男だったか。」
「そうなんですよ。
女とばかり思っていましたよ。」
滑らかな金の長髪を光らせて、女はオーストリアの話に聞き入っている。ハンガリーのように驚くような素振りもない。
「…あなたは笑わないのですか?」
「何故笑わなければならない。」
「不本意ながらこの話、色々な方に笑われていましてね」
苦々しく笑うオーストリアに対し、女は深く目を瞑り頷いた。まるで「わかる!その気持ちよくわかるぞエーデルシュタイン!」と言っているかのように。
「ハンナさん、今日はやけに無口ですね。私の話を聞くばかりではありませんか。」
「いや…何でもないのだ。気にしないで話を続けてくれ。ちゃんと聞いているぞ。」
「……あなた、もしかして」
オーストリアの射抜くような言葉に女はびくりとする。女の、驚いて肩を跳ねさせるなんて分かりやすい反応を見たのは、オーストリアはこれが初めてであった。
逸れた視線を追い掛けて目を見つめてやると、今度はだらだらと冷や汗をかきだした。
「私と同様の経験がおありのようですね。」
女の視線は一度逸れてからもう逃げなかった。そっぽを向いていた緑の目がするりと正面に帰ってきた。
「他言するな。」
「はいはい」
やはりそうでしたか、とオーストリアは満足げな様子で微笑んだ。
顔を真っ赤にしながら女は懐から数枚の写真を取り出して、テーブルの上に並べる。オーストリアはコーヒーカップを避けながらその動きを見ていた。
「…随分と可愛がりましたね。」
綺麗に隙間なく並べられた写真。どれも同じ被写体、彼女の弟――スイスが映っていた。
ある一枚では動物の着ぐるみ、ある一枚ではフリルやリボンがふんだんに使われた洋服、と言ったように、今の彼に差し出せば即焼却処分されること間違い無しの品揃えだ。
「何だか一気に親近感が湧きました」
「言うなエーデルシュタイン。」
「あなたも珍しい方ですね。
ファーストネームでいいですよ」
「うるさい!
貴様なぞと親密になる気は無いわ!」
「そうですか、残念です。
私はあなたのこと好きなのですが。」
「〜失礼する。スイスの顔が見たくなった。」
吠える人と微笑む人
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