盲の娘(北)2010正月




「ブオンアンノ、ハンナちゃん。」


爆竹の弾ける音や大きな笑い声が、広場から少し離れた店の中にまで届いていた。


「ブオンアンノ!」

「わ、わっ。フェリちゃん?」


いきなり耳元で声を出されて、私は驚いてしまった。声の主が誰かはすぐに分かった。「もー、ぼーっとしすぎだよ」と優しく頭を叩くフェリシアーノその人。


「あけましておめでとうございます、フェリちゃん。」

「あ、それ日本語?」

「そう。まずこうやって言うんだって。で、もっと色々続くの。」

「ふーん。難しいねえ」


フェリシアーノの声はいつだって楽しそうに弾んでいる。きっと今もニッコリ笑っているんだろうな。


「あ、ねえ。広場に出ようよ!」

「危ないからいい、怖いもん」


普通の道を歩くだけでも慎重にならなければならないのに。あんなに人がたくさんいるところ、怖くて行けない。

私がそう言うことを、フェリシアーノはよく知っている。


「大丈夫、ダイジョーブ。
ちゃんと俺が守ってあげる、ね?」


フェリシアーノは私の頭を撫でて、宥めるように「ほら立って。」と言う。私はこの調子にとことん弱くて、つい言いなりになってしまう。


「さ、兄ちゃんもハンナちゃんのこと待ってるよ!」


彼は一旦私がいる方へ回り、そっと私の手を取って甲にキスをした。えへへ、と照れくさそうに笑ってから、丁寧に私の手を引いて歩き出した。


「ゆっくり行くからね。気を付けて。犬が寝そべってる。踏まないように、あ、もちょっとこっちに寄って。よーし。」


躓かないように、転ばないように、フェリシアーノはこうして私を庇いながら一緒に歩いてくれる。ふと恋人だった頃を思い出して、優しいところは今も何一つ変わっていないことを感じた。嬉しくて口元が緩む。


「あのねフェリちゃん。私って、まだあなたのことが好きみたいなの。」

「うん。実は俺も。」



幸多き年とならんことを!
※盲(めしい)の娘。誤字ってません。



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