今日は自宅に人を迎えることになっていた。
その約束の時間、呼び鈴の音に気付き時間潰しの刺繍を戸棚にしまい込んで玄関へ向かう。
小柄な少女がちょこんと立っている。
風を含んで柔らかに膨らむ、純白の清楚なワンピース。
幼い顔立ちの娘のたっぷりとした黒髪に、霧状の水の粒がいくつも吸い付いていた。
天気も悪いので、手早く招き入れる。
俺が彼女に会うのは多分これで二度目。
そう、日本の家に初めて泊まったときだった。前に見かけたときは、深紅に桜が舞うような着物を着ていた気がする。
(日本、あの子は?)
(あれは私の妹です。)
(へえ……)
「ハンナ」さん。
そうだ。
和装が印象的ですぐにはピンと来なかったが、驚くべき速度で記憶の一つ一つが蘇り、そして飛び交った。
髪や身なりを気にする動作の一つ一つを目で追っていたら、なんとも愛らしく微笑まれる。
あの、ほんのり甘い香を焚きしめた一室で初めて言葉を交わした時のように。
「お元気そうで何よりです」
「イギリスさんも。」
「ところで日ほ…お兄さんは?」
つい、ぼうっとしてしまう。
俺は眉の尻がわずかに下がって、情けない面構えになってやしないだろうか。
「私だけではご迷惑でしょうか」
「あっ、いや、」
しどろもどろに「そういうことでは、ないんです…けど。」と言い訳する。
(誤解されるだろうか)
俺は恋する乙女か。と自分で自分が気持ち悪くなってしまう。この人の前では平素を疑うほど情けないもんだ。
「ハンナさん。
とりあえず紅茶とスコーンでもどうですか」
「すみません、いただきます」
何て和やかな空気なんだ。
いつもは皮肉ったり怒ってばかりだが、俺もにこにこしていられるじゃないか。
こんなに心穏やかでいられるのも、彼女のお陰なんだろうか。
「イ、イギリスさんっ!!」
そう思っていると突然、ハンナさんの興奮したような大きい声がした。
何があったのかと慌てて台所から駆けつける。
「どうした!」
彼女の元に着いたが、特に何の異変もない。それまでの平和さは健在だ。
その空気の中心にいる、ハンナさんはきらきらと輝いた目で俺を見ている。
「イギリスさん、この美しい白馬は何ですか?!」
「――ああ。ユニコーンと言います」
「そう。とっても可愛いですね!」
彼女はユニコーンのことが見えているどころか、抱いて愛でているではないか。
他の誰も信じなかったそれを。
「ユニコーンとイギリスさんは、
どこか似ている気がします」
「、はあ。」
「根拠はありませんけれど!」
ユニコーンは雄々しき角を輝かせながら、ハンナさんの懐に落ち着いている。
俺もユニコーンのように、彼女の純潔な装いと匂いに惹かれ、つい膝の上に上半身をすっかり預けて眠ってしまいたい気持ちになっている。
もしも彼女に愛してもらえたら、あの汚れなき胸に抱かれたら。
俺は間違いなく幸せになれると思う。
「ハンナさん」
「はい?」
「…ミルクは、入れますか。」
あまりに優しすぎる微笑に、気ばかりが走っていってしまう。紅茶でも飲んで、気を鎮めよう。
「とても美味しいです」
こうして憧れの人と、のんびり紅茶を飲んで過ごせる時間は何より愛おしいものに違いない。
「それは良かった。」
だがしかし、後から来ると言った彼女の兄でも誰でもいい。
早く来てくれないと間が保たなくなってしまう気がしてならないこともまた、違いないだろう。
それは誘惑する
一角獣は非常に獰猛で決して飼い慣らすことのできない生き物ですが、
処女の匂いによって引き寄せられ、そしてその懐に抱かれれば己の獰猛さも忘れて大人しく眠るそうなのであります、
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