ロシアさんは時々私を抱きしめた。
いつもは興味なんか無いように、ただそばに置いて見向きもしないのに。
「ねえハンナ」
「何ですか」
ここ数年で気付いたことがある。
「ハンナも、僕の家から出て行っちゃう?」
幼子がぬいぐるみを抱くように、彼が私を抱く。そんなとき、きっとこの人は泣いている。
「姉さんもベラルーシも、みんないなくなっちゃった」
私の髪を濡らす滴こそ無いが、きっとこの人の心は凍えて震えている。そう思えてならない。
「ハンナはいなくなりません」
「ほんとう?」
「ほんとうです」
いつでも微笑んで、大きな胸板を堂々と張る。しかし、この人は純粋な子供なのだ。
国民が暴動を起こせばその怒りに涙を流し、家族が去れば寂しく思う。
そして、支えとなるものを探し、それに縋りつきたいのだ。
「僕、ずっとこうしていたいよ」
「ロシアさんを慰められるなら、私はずっと腕の中にいます」
ロシアさんの穏やかに弾む心臓と私の心臓が皮や肉や骨を隔てて重なり、共鳴する。
まるで一つの体になったような、奇妙な感覚。
「どうして世界は僕ら二人だけのものじゃないんだろうね、ハンナ。
だって僕は君さえいれば生きていけて、君以外は誰も彼も、邪魔なだけなのに。君もそう思うでしょ?」
神様、次に世界を創るときは二人きりにしてね
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