「お、来た来た。」
ルッツが非常に困った声色で連絡を入れてきたものだから、慌てて駆けつけてみれば。
「来た来た、じゃないわよ」
「いらっしゃいませハンナ様?」
「むかつくプーたろう」
完璧な装備でせっせと働くルッツと、くしゃみをした後らしく掃除に飽きた様子のギルが掃除をしていた。
本当に、この家の兄弟の違いにはいつも驚かされている。
よく弟のルッツはギルを受け入れていることだ。
「…あーハンナ」
「すまないんだが…」
「…大体分かった」
偉そうにソファでふんぞり返っているギルの分の装備を奪って、ついでに本人も引っ張って、部屋に向かう。
そう。
私が受け持った任務とは、飽きっぽいギルの変わりに掃除を手伝うことだ。
「今回のいらない物は何かなー」
掃除の手伝いと言っても、軽くほこりを払って、窓を拭けば大体終わる。
その後は、常識が無い所為で買わされたり拾ってきたりした物品を片付けるのだが、
実はこの作業は、掃除より骨が折れたりする。
「これとかどうよ」
「何この可愛いパンダ」
「買ったやつ」
「またか」
ちょっと見ないだけでわくように物が増えているし、中には思い入れのある物もあったりする。
ただ私が抱き上げたパンダのぬいぐるみ2体についてはそうでもないらしい。
「これにはどんな効果があるのかな?」
「お見通しかよ」
「あー…確か幸せがどうとか」
エイプリルフールの日に中国と香港に騙されて買ったようだ。
なるほど、これならヘンテコな薬や銅像なんかより大分可愛らしいから、許せてしまえる気がする。
「…幸せとやらは来た?」
「馬鹿かお前は。俺様はいつだって幸せすぎて困ってんだぞ」
「確かに。
じゃあこれはいらないね」
不意に手が止まる。
詐欺の商品とは言え可愛いのは確かなこのぬいぐるみを捨てるのは、どうにも気が引けた。
そうして2体を抱いたまま迷っていると、突然ギルは不要品の袋を私から遠ざけた。
「やる。」
「い…いいの?」
「いらねーもんだしな」
今日はこのぬいぐるみがあった所為であまり整理が進まなかったが、ギルの赤い目がなんだか穏やかに私を見ていた。
この間気分が乗らなくて停滞していた時は、早くやれとか罵ってきたくせに。
「ギル、熱ある?」
「ねえ」
「…だよねー」
やるって言った時のハンナの顔が凄く可愛く見えて驚いた。
ぬいぐるみ抱いてるとこんなに違うんだな、とかギャップありすぎだろ、とか色々考えてたら、つい長いこと見つめてしまった。
どんな顔をしていたのかは分からないが、病気かと聞かれたからとにかくおかしかったんだろう。
「しかしハンナがそういう趣味だったとはなぁ」
「可愛い物好きで悪い?
……ちょ頭撫でないでったら」
「よーしよーし」
幸せを呼ぶパンダ。
嘘を本当にしてしまう、自分の力が怖いぜ。
君+俺=HAPPY!
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