餅は焼けたか




「トーリス……怖いよ」


中性的な顔立ちに、柔らかな雰囲気。
怖いと感じる要素など持ち合わせていない彼が、今の私には悪魔のように恐ろしく映っていた。

トーリスは無言で私を壁へと追いやり、手を突いて彼自身の体で閉じ込めた。


「ハンナ、君に見てもらいたいものがある」


そう言って彼が取り出したのは、一枚の写真。


「こないだ撮ったやつ。」

「そう、
ハンナ…君とポーランドの、ね。」


尋問する刑事のような迫力で、トーリスは写真をビッと強調する。
写真の中では、私と女装したポーランドがべったりとくっつき、楽しそうにピースをしていた。

同性であれば何ともないその密度も、異性…しかも恋人を裏切るような相手なら、人によっては許されるものではない。


「どういうこと?」


写真の中の私は、女装ポーランドの頬にキスまでしてしまっている。
トーリスが疑うのも当然だ。


「私が浮気しただろってこと?」
「…そうだけど」


「この子、ポーランドじゃないよ」

「え?」


トーリスに、女装ポーランド?の束ねられた長い後ろ髪や、微妙に異なった目の色などを見せる。

「もしかして…本当?」


私は黙ってコクリと頷く。

そう。私の隣の女性は女装をしたポーランドなんかではなく、正真正銘の女性なのだ。
たまたまポーランドとよく似た外見をしている、ただそれだけの。


「ご、ごめんハンナ!
俺何だかついカーッとして……」

「あーびっくりした、トーリスがあんなに怒るなんてね」

「それは君が大切だからで」


トーリスは耳まで赤くしながら、写真をコルクボードに貼った。

二人で映ったものやポーランドと三人で映ったものの中で、一枚だけ皺だらけなのが目立つ。


「私はトーリス以外異性として見てないから」
「うん」


トーリスの後ろ姿に抱き付いてみると、腰で回した腕にそっと彼の手が添えられた。

汗をかいた後で少し湿っているのも、何だか笑えてしまう。


「妬くのは私のお仕事ですよ?」
「そうなの?」

「ナターリヤとか」

「いやいやいや」


俺にとっての異性もハンナだけだから、ナターリヤは関係ないでしょ?

そう苦笑する彼は何となくあやしい。
ナターリヤは美人だから仕方ないけれど、また私のターンらしい。


「こら、また口尖らせて」








余所見なんかしないでよ



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