青春の残り香




「なーに見てんだ、ハンナ」

「あっイギリスさん!」


こん、と頭を小突かれる。

振り向けば、軽く唇を撓ませて笑むイギリスさんがいた。


「ノートの切れ端…だよな、それ」

イギリスさんは先程飲んでいた紅茶の匂いを漂わせながら、私の手中の古ぼけた小さな紙切れを覗き込んだ。


「忘れてしまいましたか?」

「覚えてるも何も、
んなゴミみてえな紙切れ……」


規則正しく並ぶうっすらとした線。
その境界を無視して斜めに走る、「好きだ」の3文字。

それに気付いた途端、イギリスさんは急激に顔を真っ赤にした。


「な、何でまだ持ってんだよばか!」


「私の大切な宝物ですから」

「そんなもん捨てろ、
今すぐに捨てろ!いいな!」

「考えておきます」

「日本に聞いたぞ、それNOなんだってな?!」


普段の落ち着きある紳士とはかけ離れた様子の彼は、私からひとひらの紙を取り上げようと必死に声を荒げた。

それがおかしくて、意地悪とは知りながら、イギリスさんが手を伸ばしてくるのとは逆の方向に逃げる。
イギリスさんは「だー、くそっ!」と明らかに更なる焦りを見せた。


「ねえイギリスさん、」

「何だ?」


ぴたりと動きを止めた彼の手のひらに、そっと紙を握らせる。


「ずっと、愛していてくださいますか?」


きょとんと私を見ていたイギリスさんは、紙切れをぐしゃりと握りつぶし、ふっと笑った。

そして紙くずを握ったまま、優しく包み込むように、私の体を抱きしめた。


「こんなもん大事にしなくてもいいくらい、愛してやるよ」


頬に触れるだけのキスをひとつ落とし、肩に手を置いたまま離れる。
その動きで起きたわずかな風は、彼の好きな茶葉の香りがした。


「だからいいか、ハンナ」

「はい」
「あー…その、だなぁ」


熟した林檎のように真っ赤な顔をこれ以上見られたくないのか、イギリスさんはもう一度、今度は一層きつく私を抱いた。

抱きしめられると、ほっとした。
雨と紅茶、そして何よりイギリスさんの匂いがする。


「…あとでやっぱ迷惑とか言っても聞かねえんだからな」


にこりと穏やかに笑ったその唇が何度も、しっとりと重ねられた。

祈るように静かに、目を閉じる。






紳士の一途な愛をあなたに




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