私は既に、夢を見始めていた。
戦いの後の荒れた地に倒れ、今まで行き急いで顧みることもしなかった軌跡を、まるで絵画でも眺めるように観ている。
ああ、暗雲が風に引かれて裂けていく。
体中に溢れて止まない痛みに時折目を細めながら、せめて太陽に看取られることを望んだ。
あの人に背負われて見た輝きに包まれたなら、悔いはないはずなのだ。
霞んだ目の前に、弱々しい自分の手が映る。
太陽へとまっすぐ伸びるそれは、さながら風になぶられる無力な草の芽のようで。
私はこのままこの場所で、終わってしまうのだと考えた。
「オーストリア……」
上司が変わる前には協力関係にあったあの人。
戦いに負けるといつも、迎えにきて負ぶってくれた。
看病しに行った時には、下ろした前髪を揺らしてすまなそうに微笑んでいた。
あの人の服の、藍。
消えるだけの私には、もう見ることさえ、叶わない。
「こんなところで寝ていると風邪をひきますよ、御馬鹿さん」
太陽を遮った、藍。
私は思わず耳と目とを疑ってかかる。
「オーストリア…?」
「何を呆けているんですか。
早く家に帰りますよ、ハンナ」
薄らいだ意識の中、逆光のせいで曖昧な感覚ではあったが、間違えようがなかった。
「……私の知らないところで消えるなんて許しませんからね」
呟きもよく通す背中。
あの人だ。
オーストリアは私が太陽を掴もうと伸ばした手を掴んで引いた。
「ありがとう」
「勘違いしないように。
別にあなたを探していたのではありませんから」
「じゃあどうしてこんなところに?」
「ただの散歩です」
つんと言い放つ彼の背で、思わず笑みがこぼれた。
ここは彼の住む国、オーストリアから遠く離れたユーラシアの果て。
散歩で来るような場所ではなかったからだ。
「十分元気ですね、ハンナ」
「オーストリアが迎えに来てくれたから」
「だから、そうではないと言っているでしょう」
そうは言うが、彼の背中は湿っていて、汗のにおいがした。
「…心配しました」
「ごめんなさい」
「あなたが消えてしまったら、誰が私を迷わないよう導くのですか」
そっと目を閉じて、汗ばんだオーストリアの背に頭を預ける。
「方向音痴だもんねオーストリア」
「うるさいですよ」
「怪我人らしく静かにしなさい」
昔のように、温かな藍色の背中に揺られながら、かけられる言葉にただただ聞き入った。
しばらく、このにおいに酔っていてもいいだろうか。
最期に思い出すのは、涙ぐんだあの人の目なんだ
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