「ハンナ、ちょっとこっち来てくれん?」
ポーランドがちょいちょいと手招きすると、ちょうど同い年くらいの少女が小走りで現れた。
「お腹空いた?」
「違うし」
民族的ジョークにおいて、お馬鹿なネタではイタリアにも勝るポーランド人だが、本来は勤勉な性格である。
しかしフェリクス本人に限ってはそれも一瞬に近いものだった。
「珍しく仕事やる気だったから、邪魔しないようにと思ってたのに」
「今休憩時間やし」
「再開できるといいけどね」
ハンナがとびきりの笑顔でからかうと、ポーランドは少しムッとして頬を膨らませた。
ソファに座る彼女に向かって、もう一度手招きをする。机まで来いという意味だ。
「あのさ、何でハンナのこと呼んだか分かる?」
緑の目がハンナの不思議そうな顔を映す。
ポーランドが書類を広げている机の前に立って彼と向き合ってみても、何も言い出さない。
「仕事飽きたから?」
「今日はやる気満々やし」
「じゃあ、うーん…」
静かにポーランドは立つ。片手を机につき、片手はハンナの肩へ。
静寂の部屋の刹那に、可愛らしい唇の音が響く。
「ポ、ポーランド………!」
「充電やし」
にやりと笑う先には、額を両手で覆う真っ赤な彼女。
ポーランドは満足気にまた椅子に座り、しばらく置きっぱなしだった万年筆を手に取った。
「はー、これで続き出来るし」
「ちょっ用事は?!」
「俺が充電したかっただけやけど?」
「もう……」
呆れたように笑い、ハンナはポーランドの仕事を後にした。
ポーランドはちらりと彼女の背中を見守ると、口をアルファベットの"U"やらその逆のように撓ませた。
「ハンナー!」
「なに?」
「何でもないし」
「なにそれ」
一見くだらないやり取りにも、彼女はくすくすと笑ってくれた。
「あー、」
それが嬉しくて、大した用事はないというのに今日もまた、ついつい名前を呼んでしまう。
「俺ハンナ好きすぎるし」
「ありがと」
後でその唇にキスさせてよね
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