今何時だろう。

上半身を起こし、思ったことはただひとつ。


白んできた空を見ながら、ベッドの縁に脚を投げ出す。

足に触れた布を拾うと、それは皺の付いた自分の服だった。そうだ。これらは半ば剥ぎ取られるように、体から離れたのだ。


腰の妙なだるさで記憶が戻る。

ああ。


「……もう着てしまうん?」


ジーンズを穿き、寝間着にと着ていたシャツの片袖に腕を通したところで、後ろからスペインの声がした。

ふと横を見れば、彼のいるべきそこは空っぽだった。口元に残る滴から、水を飲みに行っていたのだろうと想像する。


「…もう終わったでしょ?」

「せやけど」


シャツに両腕を通し終わり、ビッと襟を正す。

スペインは不満そうにこの動作を見守り、拗ねた子供のような態度をとった。


「スペイン?」

「残念やなぁ……」


そう言ってスペインは、鎖骨が見えるように私の襟の片側を引っ張った。


「せっかく綺麗に付けたんやで、もっと見てたいやんか」


何のことだか分からずにいたが、スペインがうっとりしながら指先で触れる箇所を追った。

乳房の付け根に、鎖骨の上に、首筋に、あったのは赤黒い小さな痣だった。


「こ こんなに……。」


胸と鎖骨はまだ隠せるのでよかったが、首筋のマークは襟を立てないと隠れない。

確か明日は我が国も参加予定の世界会議の会場で、手伝いがある。…軽く目が眩んだ。


「ちょっと、どうしてくれるの?」

「ははは」


おそらく、スペインは狙って目立つ場所に口を付けただろう。

このキスマークによって明日、恥ずかしい思いをするのはスペインではない。私だ。


「明日のこと分かってるよね」


彼に対する少々の恨みを込めて睨んでみても、超の付くほどの鈍感であるこの男が気付くはずもない。

あっけらかんと笑っているのを見る限り、多分私が赤くなっているのは何故なのかも察せられてないだろう。


「可愛いでハンナ?」

「ふざけないで」

「ええやん、ハンナは俺のもんや言うんならそんぐらいはやらんと」


な、とスペインは静かな声で耳元に囁く。

かかった吐息で背筋がぞくっとしたあと、シャツのはだけた隙間から、スペインの手がするりと入ってきた。

しかしもうそんな気力もない私は厳しく手をつまみ出す。しかしそれから一瞬後、懲りずに唇が重ねられた。


「盛るのもいい加減にしてね、私の体が保たないの」


胸板、鎖骨、首筋。
これで勘弁してほしいと言う意味を込め、彼が私に付けた跡と同じ位置に唇を沿わせ、同じように跡を付けた。

すると突如、陽気な性格であるはずのスペインが、無口になる。




「いい加減に、ってなあ…ハンナのそういうところが悪いんやで」




無口なスペインは、無表情にも近い恐ろしく冷めた顔をして、私の体をベッドに押し倒した。


「ま、待った!」
「悪い……止まらへん」


抵抗の可能性も間も与えられないまま、乱暴なキスの雨が降り注いだ。




「ハンナ、知っとったか?」




酷く妖しく笑う彼の唇に、私は明日の恥じらいも忘れて恐怖する。








「夜は長いんやで」




















 愛欲は底を知らず



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