ドイツはいつも忙しい。
(すぐに終わらせる、ちょっと時間を潰していてくれ)
そう言われて、私は大人しくソファで本を読みながら待つことにした。
私は本をゆっくりと読むのが癖みたいなものだから、厚い本でも選んでおけば十分事足りるだろう。
主人公の出生の秘密を知ってから次に意識を覚えたのは、何時間も後のこと。
自分でも気付かないうちに寝入ってしまっていたらしい。
瞼を上げて目の前を見ると、すっかり暗くなった風景が映った。
「…いけない、」
アルベルト、実はお前は――。そんな養母の台詞は眠る前に見たものと同じだった。
ページ数を記憶し、本を閉じて小脇に抱える。そうして向かった、ドイツの部屋。
彼はまだ仕事をしているだろうか、それとも……
「ドイツー」
彼の部屋もまた、暗かった。
ほんのり明かりの点いた机に向かえば、座ったままで眠るドイツがいた。
「ハンナ………」
「なに、」
「……………」
一瞬彼が起きているのだと勘違いした。静かな部屋のせいで声が勝手に大きく聞こえたのが少し恥ずかしい。
ごまかしの意も込めて、寝息を立てているドイツの髪を幾度か撫でた。
「ああ、寝顔まで格好いいんだこの人は」
何故かは分からない。ただ言えるのは、無意識に触れた彼の頬の温もりが優しかったこと。
気付けば私は、ドイツにキスをしていた。
彼より随分背の低い私が、少し屈んで。いつもなら私から屈むなんて絶対に無いことだ。それがとても不思議で、新鮮な気持ちになった。
「……毛布、持ってくるね」
微笑みかけるも、依然ドイツは夢の中。
眠る前に書いていたらしい、机上の書類の裏の走り書きに目がいった。
ハンナの好きなもの、と銘打って、たくさんの物の名前が羅列されている。
毛布を取りに部屋を出る前に、思わずクスッと笑いがこぼれた。
(ひとつ足りないよ、ルートヴィッヒ。)
目を覚ましたあなたに、キスをねだると決めた
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