お兄さん、親分さんちに行く




「ボンスワール、」


どうしても暇だった俺は、スペインと触れ合おうと奴の家に来た。

最近オーストリアから分けてもらったという保護国の様子も見たかったのだが。


「あれ、」

「おーい!スペイン〜?」


だだっ広い家だ。すぐに見つかるとは思っていなかったが、比較的よくいる場所にも姿が見当たらない。

大声で名を呼びながら歩き回っていると、奥まった場所から小さく声がした。


「おー、フランスよう来たなあ」


暖かく湿った湯気を顔に被った。カーテンの間から、裸のスペインが覗く。

スペインは急な来客にも関わらず、いつもの気持ちのよい笑顔で迎えた。
改めてボンスワール、ブエナス ノチェス、互いに挨拶を交わす。


「ごめんなー、俺風呂入ってるしちょっと待っててもらえる?」

「わかったー」
「すぐあがるからなー」


何とも和やかな対応に、思わず流されてしまった。


「ちっくしょぉぉぉお!!」


ムシャクシャして叫んだ。声はよく響き、俺の雄叫びに迫力が付く。


こうなったらこの家のどこかにいる奴の子分を探していじってやるか……

そう思ったと同時に、一瞬前の雄叫びに反応した靴音が聞こえてきた。


「あれ、フランス?」


鈴を転がしたように澄み切ったそれは、聞き慣れた声だった。

振り向けば、柔らかなブラウンの髪が微笑みかける優しい輪郭の女。
スペイン、プロイセンとの男3人によく馴染んだ俺たち悪友の紅一点だ。


「ボンスワール、ハンナ」

「ブエナス ノチェス」


ああ、こいつは主ある花…

スペインの女だったんだっけ。
そう自覚すると心のどこかが脈打った。


「スペインお風呂入ってたでしょ」


彼の体を触りに来たんだろうけど残念だったね、といたずらに笑う顔が懐かしい。

けど、声音は前よりずっとずっと落ち着いた大人びたものだった。


「せっかくだから、お前と戯れて待とうかな」

「え、ちょ、」

「ちょっとしたスキンシップだよ」


入り込んだ服の中では、丸みを帯びたラインと滑らかな肌が眠っている。
息が荒くなるのを感じた。
美しいものは大好きだ。彼女もまた、対象となりうる存在だった。


「いや……」


額に口付けながら、腹から腰へ向けて手を滑らす。

固く目を閉じたハンナが、胸に小さな言葉をもらした。



「スペイン…スペインー!!」



胸板を押しのけ、彼女は風呂場の恋人へ向けて必死のSOS信号。

聞こえるはずがないとハンナの服の裾に手をかける。



「どないした!!」



風呂のドアが開く。

えもいわれぬ沈黙が横たわった。


ハンナの口が、わななき始める。




「ばか…………っ」


「ん、何て?」







「タオルくらい巻きなさいばかー!」







今まで襲われかけていたにも関わらず、彼女は俺を盾に据え、
慌てて真っ裸のまま駆けつけたスペインに向かって一言叫んで見せた。




「変態!」

「……すまん、スペイン」



「フランス死ね」







俺が悪かった




あきゅろす。
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