裏切り(北)

 


「ブオン ジョールノー!」


「あら、」

いつもみたいにドイツの家の呼び鈴を鳴らしたんだけど、
開いた扉の向こうから見えたのはムキムキのドイツじゃなかった。


「グーテンターク、イタちゃん。」


ドイツの家に住んでるハンナちゃん。

よくドイツの訓練を抜け出したら、俺を追いかけてくる子。


「いらっしゃい、よく来たね」


右頬、左頬にキスを貰ったから、俺もハグ。女の子のいい匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。

(ドイツの前でこうしたら凄く睨まれるから、今の内に思いっきりぎゅーってしとこ。)


「ドイツいる?」

「ううん、本屋に出掛けてるよ」
「あーそっかー」


甘いはちみつに似た髪の先が、肩の上で、夕暮れの水面のように綺麗に光る。
晴れた空と同じ目の色と相まって、何だかすごく惹きつけられた。


「もうすぐ帰ると思うけど、何か食べて待つ?」

「わー、お菓子?」
「一応オーストリア直伝のね」



さっきから漂ってた甘い匂いの訳を、オーストリアと一緒に作ってたの、と教えてくれた。

オーストリアさんのお菓子は好きだし、ハンナちゃんの作るものも大好き。


続く俺の台詞はもちろん、「グラーツィエ」!。





「…俺、ドイツに嫌われてるのかな」


ハンナちゃんの顔を見たら、何故かポスターのことを思い出した。

日本に教えてもらったデザインで"ドイツと仲良しポスター"を作ったら、
絶対に貼るなってものすごく怒られたっていう思い出なんだけど。


「そんなことないよ、私もドイツも、イタちゃんのことが好きだよ」


この間同じことで兄ちゃんに相談したら、まったく逆の答えが返ってきたし、相手にしてもらえなかった。

でもハンナちゃんは優しく笑いながら、うんうんって聞いてくれるし、あったかく慰めてくれる。


「俺、ハンナちゃん大好きー」


そう、彼女は何だか、マンマみたいなんだ。

……ってときどき思う。




「ありがとう、嬉しいな」

けれど彼女は俺のマンマじゃなくて、でも大好きなのには変わりはなくて。

そして、大好きなドイツの、大切な人で。


…ねえ、優しく笑われてお腹がきゅーっとなるのは、ハンナちゃんが女の子だから、だよね?



「あ。イタちゃんおまたせ、ドイツ帰ってきたよ!」



まさか、そんな。



「ねえねえハンナちゃん」

「ん?何――――、っ」



裸締めじゃ済まないぞ、







ごめんなさい、俺が愛そうとしているのは親友の恋人です




あきゅろす。
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