彼女の住む島は南と呼ばれる海域に浮かんでいた。
冬を知らないそこには、年中太陽の花が咲いている。
面積は狭かったが、領土も国民も主権も全て持っていた。
「…どなたですか?」
彼女は、立派なひとつの国だった。
「僕?僕はロシアだよ」
「ロシア……」
島の大半を締める壮大な黄金の波紋。
ひまわり畑の真ん中からすっくと生えるように立ち上がった彼女の、白いワンピースがそよいだ。
「君、きれいだね」
ロシアはあたりを見回し、それに暖かいし、と、愛おしげに彼は彼女の体とも言える大地を愉しむ。
「…私にそんな意識は無いのですが」
「そうなの?ハンナはきれいだよ」
「なんで私の名前、」
風を受けて浮く麦わら帽子を頭に押さえつけながら、ロシアへ問いかける。
ロシアは顔に薄暗い影を灯しながら、微笑んだ。
「君は僕と結婚するんだよ、名前覚えるのなんか当たり前でしょ?」
ハンナは南の海のどこかに浮かぶ島国だった。
島の周囲で荒れ狂う大渦が彼女を閉じ込め、常識の更新を塞ぐ。
彼女はずっと独りで生きてきた。
結婚や同居が何たるかも知らぬまま育った少女は、
もちろんロシアが自分へ何を言っているのかもわからない。
「結婚なんてもの私には早いですよ」
「そんなこと言わないでよ」
「僕は君が欲しいんだよ、ハンナ」
ロシアの紫の瞳が優しげに映したのは、
暖かな風景とひまわり畑だった。
嗚呼哀れな花嫁は何も知らず
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