last letter

 



あるたとえ話のようにもしも世界の終わりがそこにきたというのなら、私は迷わず日記帳の一ページ目を開くだろう。


(ハンナ、)


初めて浮気を許した夜、フランシスはこっそり私の日記帳を盗み出した。

日記帳が無いことに気付いて私は彼の部屋に乗り込んだ。そして、手が痛くなるまで彼の胸板を叩いた。


私が疲れて手を止めたあとに返ってきた日記帳の一ページ目には、よく知った綺麗な文字で私の名前がそっと書かれていた。それを見たあの私は、けろっと嫉妬も忘れて泣いたものだ。



何もかもが消えるその時まで、フランシスがくれたこの短い文字の連なりを眺めていたい。


優しく私の名を呼ぶ先を想像しながら、私は眠りにつく。
そうすればきっと絶望的な世界の崩壊も、微睡んで眠ってしまうみたいに、受け入れられるはずだから。





(ハンナ、独りにしてごめん。)


(ハンナ、キスしよう。)


(ハンナ、好きだよ。)


(ハンナ、ワイン飲もうか。)


(ハンナ、泣かないで。)



(ハンナ、おやすみ。)







(ハンナ、愛してるよ。)









嗚呼、眠る前にペンを取ろう。


日記帳の最後のページに小さく彼の名前を付け足して、この世は終わる。







「フランシス、」





あのね、わたし愛情に飾りなんていらないの





あきゅろす。
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